第267話

 ――正真正銘、本気で行かせてもらうっスよ。


 そう言ってハヤテは、二本の刀を両手に握った。逆手に持った刀を向けるハヤテに対し、刹鬼は舌打ちをしながら拳を強く握り締めて目を細める。

 睨み合う形となったが、背中を木に預けているハヤテは短い呼吸を繰り返す。今まで戦っていた刹鬼からすれば、往生際が悪いという印象しかない。まだ続けるのかという呆れを通り越して、刹鬼は苛立ちを覚えて妖力で全身を覆い始める。


 「本気、ね。三下如きが、これ以上オレ様をイラつかせるな!」

 「……」

 「さっさと、死にやがれよっ!!!雑魚妖怪がっ!!!――剛拳ごうけん!」


 全身を覆っていた妖力が拳に集束され、刹鬼はそれを勢い良く拳を突き出した。その瞬間、ハヤテの視界を覆う程の妖力の塊が襲い掛かる。


 「っ!?」


 背中を預けていた木から離れたハヤテは、回避した速度を殺す為に地面で足を引き摺った。衝撃に舞い上がった砂埃に包まれた刹鬼を見据え、ハヤテは刀を構えたまま様子を伺う。

 

 「大した威力っスね。今まででも十分な威力だったはずっスけど、いきなりやる気満々っスか」

 「やる気?んなもんねぇよ。テメェみてぇな三下を相手するハメになったオレ様の怒りだ。テメェはそれを受けるべきなんだよっ、オレ様を満足させられねぇなら……避けないで死ねっ」

 「参ったっスね。……そこまで言われちゃ――抗いたくなるじゃないっスか」

 「あ?」


 そんな呟きが聞こえたが、刹鬼は気にも留めずに再び剛拳を放った。だが当たる距離になるまで、ハヤテは避ける気配も素振りすらない事に気付いたのだろう。

 刹鬼はそんなハヤテの様子に違和感を覚えた。先程まで回避行動を取り続けていた相手が、いきなり回避行動を取らず、その場で構えているのだから違和感でしかないだろう。

 だがハヤテは口角を上げて微笑みながら、逆手に持った刀を振るい始めた。


 「――風斬かぜきりの舞」

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