第255話

 陰陽師によって召喚され、魔境に侵入した狐の式神。それを排除する為に攻撃を仕掛けた焔鬼と茜は、予想外の事態に襲われていた。

 今まで苦戦する時があっても、全開で妖力を解放する事はなかった。しかし、目の前に居る狐の式神は手強く、苦戦を強いられていたのだ。手も足も出ない訳ではないが、それでも決定打のない攻防が続いている状態となっていた。


 「くっ、何なんだこいつは」

 「ほーくん、あれっ!」

 「――っ!?」


 茜が指差した方へ視線を向けた焔鬼は、目を見開いて目の前で起きている事を理解した。いや、少しばかり理解が遅れたが、目の前で拡がっているそれを見て気付かない訳がなかったのだろう。

 狐に隠されている形で、背後の空間に亀裂が入っていたのだ。そこから徐々に侵入しようとする白い腕を見た瞬間、焔鬼は刀を強く握り締めて地面を蹴った。


 「クソがっ!!」

 「ほーくん!?」

 「急いでこいつを倒す!お前はそのままこいつが召喚した小狐を倒し続けてくれ」


 焔鬼は気付いたのだ。召喚されている小狐と式神である本体の狐。それが妖力によって繋がっている事に気付き、術を発動している本体を叩かなくてはならない事にだ。

 言われた通りに行動する茜だったが、召喚された小狐の数は茜だけでは倒し切れない程だ。それを把握していた焔鬼は、なんとかして本体を倒そうと力を振り絞ったのだが……それがキッカケだった。


 「ほーくんっ!!」


 召喚された小狐は、本体とは別で術を発動出来るようになっていたのだ。術者を狙い続ける焔鬼を阻止しようとするのは必然であり、攻撃に集中していた焔鬼は回避行動が遅れてしまったのである。

 ゆっくりと倒れる焔鬼、傷付いた焔鬼を見た茜の中で……何かが弾けた。


 「ほー、くん……?うあぁぁ、ぁぁ……アァァァァァァァァァァァッッ!!!!」


 その瞬間、茜の視界は赤黒いに覆い尽くされたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る