第246話

 「――ねぇ、提案なんだけど」

 「??」


 防御に特化した方陣を展開していた茜に対し、桜鬼は苛立ちを見せつつも溜息混じりに言った。


 「お前に私と戦う意志があるのなら、少しだけ待っても良い」

 「え?」

 「だから、そいつが居るからお前が本気を出せないんだろ?巻き込みたくないのなら、さっさと町にでも離れた場所にでも置いていけ。目障りだ」

 「……」


 桜鬼の言葉にキョトンとしていた茜だったが、すぐにその言葉の意味を理解したのだろう。そしてクスリと笑みを浮かべた茜に対して、桜鬼は眉を寄せて嫌悪に満ちた表情を浮かべながら告げる。


 「さっさと置いて来いよ、さっさと!お前が本気で戦えないなら、倒しても意味が無いだろうが!」

 「サクラちゃんが、圧倒的有利な状況なのに?」

 「うるせぇなぁ!さっさとしろよ!置いて行くのか?行かないのか?」

 「はいはい、じゃあ少し待っててね」

 「念の為に言っておくが、逃げたりすれば容赦なく町を焼き払うから」

 「分かってるよ。正々堂々と勝負を挑まれたんだから逃げないよ、大丈夫」

 「ならさっさと行け」


 面倒そうに手を振りながら、茜に杏嘉を置いて行くように催促する。そんな桜鬼の言葉に笑みを浮かべながら、茜はお礼を呟いて桜鬼の前から姿を消した。

 それを見送った桜鬼は、一人になった途端に空を見上げて呟いたのである。


 「本気のお前を越えなきゃ、兄様の隣に立つ資格は無いだろうが……バカ茜」

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