第210話

 桜鬼との距離を詰め始めた杏嘉は、術を操っている桜鬼に対して容赦なく拳を振るった。方陣から火球を出現させ、移動する杏嘉を応戦しようとしたのだろう。だがしかし、火球が掠る気配もなく接近されてしまった。

 

 「歯ぁ食い縛れぇ!!」

 「……守護方陣・おぼろ

 

 顔面に直撃するかと思えた拳を見据え、桜鬼は妖術で結界を作り出して杏嘉の拳を受け止めた。だが、威力の高い一撃とすぐに理解出来たのだろう。作り出した結界にヒビが入った。


 「その程度の結界で、このアタイの攻撃が防げるかよぉ!」

 「……いつまで舐めた口叩いてやがるんだ、クソ狐!」


 桜鬼がそう告げた瞬間だった。防御として展開していた方陣が形を変え、周囲に展開していた火球の方陣も姿を変えた。防御に徹している術はより強固になり、入っていたヒビが消え去った。

 そして火球を出現させていた方陣は、その数を倍以上の数に増えて小規模の方陣へと姿を変えていた。それに目を見開いた杏嘉は、拳で結界と一緒に桜鬼を押し出して距離を取ろうとしたのだが……それを桜鬼は見逃さない。


 「言ったでしょ。お仕置きの時間ってさ」

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