第152話

 魅夜の事を蹴り飛ばした左近は、軽くその場で跳ねて小首を傾げて骨を鳴らす。かなりの距離を飛ばしてしまった事を理解した左近は、面倒さに包まれながらも魅夜を追おうとした時だった。


 ――ッッ!!


 ズンと空気が重くなった事を悟った左近は、生唾を呑み込んで重圧を感じた方へと振り返る。するとそこには、自分よりも遥かに強者である者が姿を現した。


 「え、焔鬼様……どうしてこちらに?」

 「右近の気配が消えたのと同時に、左近の気配が強くなった理由を確かめに来たんだ。その様子だと、右近は逝ってしまったようだな」

 「……はい。不覚にもあの猫に遅れを取ってしまいました。私にもっと力があれば、このような事にはならなかったのですが」

 「後悔をするな。右近はお前に力を託すという形で、共に戦おうとしているんだ。お前が一人ではないと、孤独ではないと支えているのだ。そう後悔しては、右近の意志を無碍にするのと同義だ」

 「っ、そのような事を考えて頂けるなんて、大変恐縮です」


 跪いた左近は、微かに慌てた様子で頭を下げる。重く圧し掛かる妖力が、徐々に左近の精神を削っている。少しでも気を抜けば、倒れてしまうと自身が錯覚してしまう程に疲弊していると感じている事だろう。

 それ程に、焔鬼という存在は遥か彼方の存在だと言えるだろう。そう感じている左近に対し、焔鬼は小さく口角を上げて笑みを浮かべて告げた。


 「魅夜は決して弱くはない。今のお前でも、無傷で勝つ事は難しいだろう」

 「い、いえ、そんな事はっ」

 「無理するな。右近の妖力があるとはいえ、先の戦闘で既に疲弊しているのだ」

 「くっ……」

 「だが、オレは今のお前が敗北するとは思っていない。公平ではないが、お前にオレの力を分けるとしよう」

 「っ!?」


 そう告げた焔鬼はゆっくりと手を差し伸べ、左近の頭へとその手を乗せた。その瞬間、左近の全身を赤い妖力が覆い尽くした。激しく上昇する熱を帯び、苦しさの中で左近は土を抉る程に爪を立てる。

 やがて苦しさに耐えた事を見届けた焔鬼は、ニヤリと笑みを浮かべて言った。


 「良く耐えた。必ず勝利すると期待しているぞ、左近」

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