第148話
目の前から退散した左近を追い、魅夜は木々を蹴って移動していた。辿っていた気配を二つの内、一つが消えていくのを感じて足を止める。周囲を気配を探れば、付近の木陰で背中を預けている右近の姿を見つけた。
そんな右近の体を揺らし、呼び掛けながら涙を流す鬼の少女。それが先程戦っていた左近だという事は、一目で理解した魅夜は木から飛び降りた。
「……やっと死んだみたい。どう、一人になった気分は?」
「……」
「??」
挑発紛いな事を言った魅夜だったが、何の反応を見せなかった左近。そんな様子に小首を傾げた魅夜は、左近の背後に近寄り目を細める。見下すように向けた視線には殺気が包まれ、振り下ろそうとする手は鋭い爪が輝いていた。
「……そのままそれと一緒に、――死ね」
そう告げた魅夜は、勢い良く腕を振り下ろした。だがその瞬間、左近を覆い尽くす程の妖力が溢れた。その風圧を警戒した魅夜は、ハッとした様子で咄嗟に後へ跳んだ。
妖力が溢れた事に驚いた魅夜は、目を見開いて左近を睨み付ける。ゆっくりと立ち上がる左近は、ユラリユラリと左右に体を揺らす。その様子に奇妙さを覚えた魅夜は、違和感を感じた。
何故なら、左近の妖力が先程よりも膨れ上がっていたからだ。その違和感を拭う為、魅夜はキッと奥歯を噛み締めて地面を蹴った。勢い良く距離を詰め、左近へ強力な一撃を繰り出そうとした。
「――っ!!」
だがしかし、その腕は掴み取られてしまった。そして左近は、一言だけ呟いた。
「……死ぬのは、お前だ」
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