第128話

 「っ!」


 素早い動きで左右に振る魅夜に対し、右近と左近は防戦一方となった。反撃を繰り出したとしても、繰り出す頃には既に場所を移動している。反撃させる隙はあっても、距離が開いてしまえば攻撃を当てる事は困難になる。

 近接戦闘を主軸にしている所為で、右近と左近は完全に魅夜のペースに呑まれていた。


 「右近お姉様、このままでは」

 「……」

 「右近お姉様?」


 左近が問い掛けたのに対し、右近は素早い動きで移動する魅夜を見据える。木々を忍者の如く移動し、小さな体を最大限に活かしている動きをしている。

 そんな様子を観察していた右近は、微かに口角を上げて左近に言った。


 「左近、少しの間だけ頼めるかしら?」

 「何をでしょうか?」

 「少しの間だけ、あの猫の動きを抑えて欲しいの。大丈夫、貴女なら問題なく出来るわ。妖力の戦い方は、あの方から教わったでしょう?」

 「……分かりました。出来るだけ長く時間を稼ぎます」

 「ありがとう」


 そう告げた左近は地面を蹴り、高速で移動していた魅夜に体当たりを繰り出した。それを回避した魅夜は木の枝に着地し、地面で急停止している左近の事を見据える。

 周囲に右近の姿が見えない事を理解した魅夜は、視線だけを左近が来た方向へと向ける。


 「(こいつだけ?どうして二対一の有利を捨てた?)」

 「本当ならば、お前の事はこの手で殺したい所だが……」

 「?」

 「お姉様の命により、お前の相手はしばらく私だ。だが安心すると良い」


 小さく、そして短い呼吸をした左近。体勢を低くし、突撃の構えをしながら魅夜を真っ直ぐに見据えて言葉を続ける。


 「――つまらない戦いはしない事を約束する」

 

 左近の妖力が微かに上昇している事を悟った魅夜は、溜息混じりに目を細めて木の枝から見下ろして告げたのであった。まるで、小物でも見るかのような視線を向けながら……。


 「そういえば、お前はボクの腹を蹴ったな。……丁度良い。仕返しの時間だ」

 「っ!?(妖力がまた上がった!?)」


 魅夜はそう告げた瞬間、左近の全身に悪寒が走った。咄嗟に身構えた瞬間、ほんの一瞬の出来事である。瞬きをした一瞬で、魅夜は左近の眼前に迫っていた。


 「なっ――!」

 「お返しだ」


 そう呟いた魅夜は、左近の腹部を力の限りの蹴りを放った。

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