第126話

 自己再生能力が高い右近は、自らの片腕を治してから魅夜に近寄った。大木を背中に預けながら、近寄る右近の視線を睨み返す。そっくりそのまま告げられた言葉を返された事で、左近のフラストレーションは頂点を越えた。


 「ぐっ……右近お姉様の腕を切り落としたのです。回復するとはいえ、お姉様の腕を傷付けた代償は大きいぞ。猫」

 「ボクが悪いみたいな言い方だ。勝手に攻め込んで来て、攻撃を仕掛けて来たのはそっちだ。そしてボクの相手になったのだから、片腕じゃ安いものだ」

 「減らず口を」

 

 魅夜の言葉に苛立ちの限界を迎えた左近に対し、前に出ようとする左近を右近は制した。生えたばかりの片腕を確かめながら、右近は目を細めて魅夜を見下ろしたまま言った。


 「確かに攻め込んで来たのはこちらの責任ね。なら、貴女達はそれに反抗しなければ良いだけの事。黒騎士の方々とあの方の言う事を従っていれば、命を絶やす事も無かったと思うわね。単なる無駄死によ」

 「……」


 ……――無駄死に。


 その言葉を聞いた瞬間、魅夜は顔を俯かせて目を伏せる。消えてしまった気配の中には、仲間である綾の存在もある。それを理解している魅夜は、溜息混じりに呆れながら吐き捨てた。


 「減らず口は、どっちだ」

 「「っ?」」

 「無駄死にだって?その言葉、二度と吐けないようにしてやる」


 そう言い放った途端、右近と左近はハッとした様子で魅夜から距離を取った。条件反射で後ろへ下がった事で、魅夜への圧力という拘束が解けてしまう。

 

 「お姉様、これは……」

 「ええ、これがあの方の言っていた半妖の妖力のようね」


 跳ね上がった妖力が、右近と左近の体を重くしていく。肌で殺気を感じていた彼女達の前で、魅夜は一歩だけ前に進んで告げるのであった。


 「楽に死ねると思うなよ。お前達は、ボクが殺してやる」

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