第115話

 「纏イ……軻遇突智カグツチ黒焔コクエン


 そう告げた戯鬼の妖力は跳ね上がる事は無かったが、両腕に赤黒い炎を纏った姿が狂鬼の前に現れる。だがその姿を見据える狂鬼は、ムスッとした表情を浮かべていた。

 何故なら、戯鬼の纏っている炎には見覚えがあったからである。


 黒い炎……。

 

 それは彼等を束ねていた存在であり、今起きている戦いを始めた彼の象徴だ。赤い炎と黒い炎を操る事が出来る彼の力を体現したような戯鬼に対し、狂鬼は微かな苛立ちを覚えている。

 軽い嫉妬心のようなものだが、何よりも戯鬼が自分よりも先にそれを体現させた事に苛立っているのだろう。過去の黒騎士達の血液から生まれた存在で、その力を引き継いでいる可能性は極めて高い事は理解している。

 しかし、狂鬼はその姿を睨み付けたまま、大斧を思い切り振り回したのである。たった一言、呟きながら……――。


 「……潰すっ」

 「黒焔、双炎牙そうえんが


 地面を蹴った狂鬼に対し、戯鬼は両腕の炎を纏ったまま振るう。互いに拮抗した力が故に、衝突した力は反発して後ずさった。

 地面に足を引き摺った狂鬼も戯鬼も、互いに視線を交わして睨み合っている。だがしかし、妖力が溢れているという条件は同じだからだろう。息が上がり始めた所で、狂鬼は大斧を構えながら告げたのである。


 「次の一撃で決めてやる。テメェも出し惜しみすんじゃねぇぞ、人形野郎」

 「ワタシはオマエを殺すと決めタ。だかラ、出し惜しみするつもりはないヨ」


 小さく笑みを浮かべる狂鬼は、短い深呼吸をしてから戯鬼を見据えた。その瞬間、戯鬼の元へと再び地面を蹴って接近した。戯鬼も同時に地面を蹴り、衝突する前に腕を思い切り振り上げた。


 「死ね、狂鬼!!」「死ね、戯鬼!!」


 その瞬間、二人は二つの妖力の輝きに包まれたのである。

 

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