第98話

 ――二年前。


 鬼組の本拠地である神埼邸内で、前総大将だった焔鬼の穴を誰が引き継ぐかという議題が幹部会議が行われていた。他の組員を呼ぶ事も必要だが、総大将という立ち位置を狙っていた組員も居るからだろう。

 焔鬼の意志を引き継げる者でなければ、鬼組の総大将には相応しくないと考えている。組員の誰よりも強く、誰もがその背中に畏敬の念を向けるような存在。それが鬼組の総大将だというイメージが強く染み付いている。

 当時の鬼組幹部である「ハヤテ」「刹那」「杏嘉」「綾」「村正」が、蝋燭の灯りを囲んで話し合っていた。誰よりも強く、組員全員が慕うようなカリスマ性を持つ人物。当時は、そんな存在が求められていた。


 「ワシはパスじゃ。総大将の座が欲しいと思った事は一度も無いし、ワシは面倒なのが嫌いじゃからのう。長いものに巻かれるのは、退屈じゃろうしの」

 「お前はラクしてぇだけだろ」

 「そうとも言うのう」

 「そうとしか言わねぇだろ。ま、アタイも同じだけどな。退屈なのは嫌いだけど、面倒なのはもっと嫌いだ。アタイは誰かを率いて戦うっていう事は出来ねぇだろうしな」

 「確かに杏嘉には無理じゃろう。単細胞じゃからな」

 「あ?殴り殺すぞ、テメェ」

 「返り討ちにしてやるわ」


 そう言葉を交わす杏嘉と綾。その様子に苦笑しつつ、ハヤテは彼女達を宥めた。彼女達も本気で争うつもりは無いという事は知っているが、本気の喧嘩があっても困りものだ。

 彼女達が喧嘩をすれば、周囲にも影響が生じるぐらいに激しいものになる。それを理解している組員は、ヒヤヒヤしながらも苦笑しながら宥めるのである。


 「そ、そういえば村正はどう思うスか?」

 「拙者でござるか。ふむ……拙者はハヤテ殿が良いと思うでござるよ」

 

 宥めるのと本題に入った村正の意見に対し、口論していた彼女達も同意する。彼等の視線が自分に集まっている事に気付いたハヤテは、肩を竦めながらに苦笑して言った。

 

 「本当に俺で良いんスか?後悔するかもっスよ」

 

 そう問い掛けるハヤテに対し、静かに座っていた刹那が言った。


 「ここに居る者は焔様に忠義を示した者です。その忠誠を向けた方が決めた者であれば、ここに居る者達に拒否する理由はありませんよ」

 「……」

 

 刹那の言葉が本当なのかと、ハヤテは全員の顔を見る。視線が重なると、刹那の意見に同意するかのように頷いた。その意志が伝わってきた事で、ハヤテは後頭部を掻きながら告げた。


 「――分かったっスよ。この話は、これでもう終わりっスね」

 『いつまで待たせる気だ?オレ達を待たせるなんて、良い度胸してやがるなぁお前』


 突然聞こえて来た声に驚いた一同だったが、ハヤテだけが何食わぬ表情を浮かべていた。そして襖が開けられ、警戒心を向ける一同は目を疑った。そこには敵として対峙していた黒騎士達、「蒼鬼」「剛鬼」「狂鬼」の姿があったのである。


 「待たせてすまないっス。けれど、良い感じで出てくれたじゃないっスか」

 「どういう事だよ、ハヤテ。こいつらはアタイらの敵だろ?」

 「次の議題っスよ。そして俺は、総大将の件も含めて話があるっスよ」


 ハヤテはそう告げて、一同に自分の意見を述べた。そしてかつて敵だった黒騎士達を仲間に引き入れたのである。

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