第97話

 ――パリン。


 そんな音を立て、ガラスが割れるかのように。狂鬼の纏いは、いとも簡単に消滅した。まるでそこに初めから何も無かったかのように。最初から、纏いの使用状態ではなかったかのように。

 通常に状態を戻された狂鬼は激しく動揺し、背後に回り込んだ戯鬼を振り払おうとする。だがしかし、振り回した大斧は回避されてしまい、戯鬼は最初に居た場所まで一瞬で戻っていた。


 「チッ……テメェ、オレに何をしやがった!?」

 「何モ、してないネ。ただ力を掻き消しただケ」

 「力を……掻き消した?」

 「その通リ!これがワタシの纏いの力であリ、唯一無二の最強の力!この力の前でハ、どんな強力な力であっても無意味!!」


 高らかに声を上げ、戯鬼は両手を広げてそう言った。その様子が気に食わなかったのだろう。狂鬼はそんな戯鬼を睨み付け、手斧を出現させて戯鬼に向かって投げた。真っ直ぐに戯鬼の顔面に投げられたのだが……。

 

 「何のつもりかナ?」

 「チッ」


 眼前にまで投擲とうてきされた手斧を、戯鬼は片手間の作業のように掴み取った。無傷のまま掴み取った手斧を見つめ、戯鬼はニヤリと笑みを浮かべて視線を上に上げる。

 それを見た瞬間、狂鬼はハッとして目を見開いて空へ叫んだ。


 「烏丸!今すぐそこから離れろ!!」

 「っ!?」

 

 その叫び声が町中に響いた瞬間、時は既に遅かった。狂鬼の声に反応を見せた烏丸だったが、烏丸は下に居る狂鬼を見つめたまま動かなくなった。

 それもそのはずだ。時は既に遅く、烏丸の胸から赤い滴が垂れ始めていたからだ。自分の状態に気付くのが遅れた烏丸は、自覚した瞬間に激痛が走る。だがしかし、烏丸は激痛よりも先に自身の状態の影響が生じた。


 「烏丸っ!!」

 「っ……狂鬼、さん……!」


 血反吐を吐いた烏丸は、真っ逆さまとなって下へ落ちた。それを見据える狂鬼は、奥歯を噛み締めて落ちていく烏丸を受け止めに向かうのである。

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