第81話
「――っ!!!」
「ごぼっ!?」
ハッとして現実に意識が戻った杏嘉は、綾から豹禍を引き剥がす為に殴り掛かった。瞬時に詰められた距離は、今までの速度よりも遥かに速い。そしてその威力は、豹禍が殴り飛ばされる程に高い威力を出していた。
貫かれていた綾は解放され、脱力するように地面へ倒れて行く。その途中で支え抱き、杏嘉は満身創痍な状態の綾を見て表情を歪ませる。それは悲しみであり、何かを失うという恐怖から表れていた。
「っ、綾ぁ!!死ぬな綾っ!!」
「うる、さいのう……そんな声を、出さずとも、聞こえとるわ……阿呆」
綾から流れ続ける血は止まる様子は無い。いつになく焦りを見せている杏嘉は、周囲に居る鬼組の組員が居ないか気配を探る。だが仲間の気配は無く、餓鬼と交戦している気配だけは感じた。
交戦しているのであれば、こちらの状況を理解している可能性も低い。何より、自分の身を守るのが精一杯な状態では、視野が狭くなるのも必然なのだ。周囲を気にする余裕など、既に無いと思った方が良い。
それを理解してしまい、感情を抑えられなくなった杏嘉。抱き締められていた綾は、目を疑うようにしながらも目を細めた。そして手を伸ばし、杏嘉の頬に触れながら言った。
「何を泣いておるのじゃ、杏嘉。お主は、ワシの事が、嫌いじゃったじゃろう?」
「うぅ……ぐっ……違うっ、アタイは、本当はっ」
「その顔を見れば、一目瞭然じゃな。あはは、そうか……そうか、そうじゃったな。……お主は、素直じゃない奴、じゃからのう」
「もう良い、喋らなくて良いから……生きる事だけを考えてくれよっ!!」
懇願するように涙を流し、杏嘉は強く綾の事を抱き締める。生きて欲しいと願っているが、自分がどうなっていくのを理解している綾は笑みを浮かべ続ける。
首を左右に振りながら否定し、我儘を言う子供のような杏嘉。そんな杏嘉を見つめ、優しい笑みを浮かべたまま……綾は目を閉じた。
「愛しておるよ……ワシの、一番の友よ……主はワシの、大切なかぞ、く……」
「っ……綾!?駄目だ綾っ、死ぬな!!!アタイを独りをしないでくれっ!!」
「……」
「あぁ……ぁぁっ…………――――――――――!!!!!!!!!」
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