第67話
強い妖気が衝突し合っている。その感覚は、幽楽町だけではない。周囲に居るオレの元まで届いている。片や憎しみに命を燃やす者、片やその憎しみを受ける者。
憎しみという負の感情は、この上なく餓鬼の餌に成り得てしまう。その憎しみに体が、本能が反応した餓鬼はその欲望に駆られて向かい始める。
「兄様、如何なさいましたか?」
「……」
「兄様?」
だが、復讐心に駆られる事が間違いであると諭す気は無い。元々オレも、復讐心に駆られていたのだ。自分の復讐が果たされていない以上、他者の復讐を諭す資格など無いに等しい。
しかし、闇は新たな闇を創り出す。断ち切る事の出来ない連鎖は、やがて一つの塊へと姿を変貌させる。もうすぐだ。もうすぐ、オレの目的が果たせるのだ。
――そう思い始めると、胸が躍って仕方が無い。
「っ……」
「どうした?サクラ。オレの顔に何か付いているか?」
「い、いえ……いつも通り、私の目を奪う程に整った顔立ちで御座います」
「そうか」
そう小さく答えたオレだったが、桜鬼は微かに戸惑っている様子だった。顔色が優れていないように見えるが、妖力が枯渇しているのだろうか。現世に侵攻してから、およそ一時間以上が経過している。
その間に桜鬼は、常に幽楽町全体に結界を張っている状態だ。妖力の量が多いからこそ頼んでいたが、少々酷な事をさせていたのかもしれない。
「サクラ」
「は、はい。何でしょうか?」
「近くに来い。少しお前の顔を見せてくれ」
「っ、あ、兄様。と、突然何を……(あ、兄様が自ら私にお誘いを!?こ、これは好機?好機なのですか?ついに私の時代が、兄様に選ばれるという好機が舞い降りたのですか!?)」
オレはそう言いながら、躊躇する桜鬼に首を傾げる。自分で両頬に手を添え、何やら妙な動きを繰り返している。少し背を向けていた桜鬼だったが、やがて奇妙な動きに満足したのだろう。
ゆっくりとオレの近くに歩み寄った。やがて目を閉じた桜鬼は、オレの行動を待つ事に徹した。ならば丁度良い。そう思ったオレは、桜鬼の頬に手を添えて妖力を流し込んだ。
「あ、兄様?(あ、あれ?唇が重ねられて、ない?)」
「ふむ、顔色が良くなったな。あまり無理をするな、妖力を回復させたからまだ結界を継続出来るだろう」
「あ、有難う御座います。(ち、違ったっ、くぅ……うぅ、期待しましたのに)」
妖力を流し終わったのだが、何故か涙を流す桜鬼にオレは首を傾げるのであった。
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