第54話

 『邪魔ヲ、スルナァァァァァァッッッ!!!』

 

 怒号のような叫び声を響かせ、餓鬼が力の限り腕を振り下ろす。その腕の真下に居た村正は、その場から一歩も動かずに刀で薙ぎ払う。ボトッと斬り落とされた腕と切断された腕の間に立つ村正は、抜いたばかりの刀を再び鞘に納めた。

 その瞬間、いつ斬ったのか分からない程の斬撃が餓鬼を襲った。斬り刻まれた餓鬼は消滅し、断末魔が町中に響き渡る。その様子を見ていた餓鬼は、そんな村正との実力差を理解したのだろう。

 攻め込もうという意志はあっても、圧倒的な戦力を持っていても動く事が出来なかった。そんな餓鬼達の行く手を阻んだまま、背後で戦っている剛鬼の様子を村正は伺っていた。


 「剛鬼殿……最初よりも痩せたでござるな。前はもう少し、大柄だったはずだが……まぁ、今も拙者よりは大柄だが」


 苦笑しながら呟いた言葉通り、剛鬼の体は魔境で暮らしていたよりも小さくなっていた。大柄だった体だったと記憶していた村正は、以前よりも少し小さくなった剛鬼の様子を心配に考えたのだろう。

 だがしかし、その心配が杞憂きゆうだという事をすぐに理解した様子だった。それもそうだろう。何故なら、龍鬼の前に立つ剛鬼の気配は凄まじく大きい物へとなっていたからだ。


 「どうした、龍鬼よ。来ないなら、こちらから仕掛けても良いんだぞ」

 「っ……いつまで、ボクの師匠を気取るつもりだっ!!剛鬼っ」


 その言葉で微かに抱いていた期待が消え、龍鬼は怒りを抱いて丸腰の剛鬼の間合いへと入り込む。鎧を外してしまった以上、影蛇が邪魔してくるのを警戒する必要はない。

 龍鬼もそれは理解しているのだろう。躊躇無く間合いへと入り込み、容赦なく剛鬼の上半身……心臓を狙って短剣を突き刺そうと攻め込む。だがしかし、剛鬼はそれを許さなかった。


 「ぬるい」

 「――っ!?」


 心臓を狙った龍鬼だったが、剛鬼の振るった腕によって遮られた。振るわれた腕を回避する為に下がった龍鬼だが、目を見開いて剛鬼の行動に目を疑っていた。

 何故ならば、龍鬼の攻撃を片手のみで防ぎ払ったからだった。一歩も動かず、表情を歪める事もなく、ただ片手間のようにさばかれたのである。

 その行動と結果に動揺しつつも、龍鬼は奥歯を噛んで睨み付けて突進した。


 「手加減してるつもりか!!ボクを舐めるなっ、剛鬼!!」

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