第43話

 幽楽町の中で、衝突し合っている者達。幽楽町とそこで暮らす人々を護る鬼組の者達、その町に攻め込んだ焔鬼の配下の者達。戦っている者達の衝突音は、町中に響き渡っている。

 鬼組と陰陽堂の者達によって、人々を安全な場所へと誘導している。陰陽堂の者達が結界を展開し、人々を非戦闘区域へと移動させる。町中に広がる衝撃音が響き渡る中、町から離れた場所で黒騎士達と鬼組達が衝突し合う様子を眺めている。

 その者は幽楽町へ攻め込んだ餓鬼と黒騎士達の長であり、過去に鬼組の彼等を率いていた存在。


 「兄様、退屈では御座いませんか?」

 

 そんな彼の膝に手を添え、身を寄せようとする彼女。黒騎士を束ねるもう一人の存在であり、黒騎士の中では最強を誇る実力を持っている存在でもある。

 彼女の行動を手で制する彼に対し、不満そうに頬を膨らませている。制された事に納得出来ない彼女だったが、彼は彼女の問い掛けに応えた。


 「退屈ではあるが、奴らの忠義を確認する良い機会だ」

 「確かに、黒騎士ではない者が一人混じっておりますからね」

 「……あぁ、豹禍の事か」

 「あの者を本当に信用して宜しいのですか?牙狼族の者とはいえ、自分の一族を私に売った者ですよ?すぐ裏切る可能性もあるんじゃないですか?」

 「その時はお前に任せる。罰を与えるのは得意だろう?」

 「確かに得意ですが……あの兄様?私を何だと思っているんですか?」

 

 ムスッと不満気な表情を浮かべるが、すぐに彼女は気を取り直して言った。


 「――と、とにかく彼の事はまだ信用出来ません。兄様も気を付けて下さい」

 「オレが奴に遅れを取ると思うのか?」

 「そんな事は有り得ません。ですが、万が一の事がありますのでご注意を」

 「あぁ、お前がそこまで言うなら肝に銘じておこう」


 彼がそう言うと、彼女が笑みを浮かべるのである。

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