第40話

 幽楽町に散らばった黒騎士達は、各々で相手をしたい者の選んで散らばっている。黒騎士達は好戦的な性格の者達が多く、過去の者達と比べて力押しなメンバーが揃っている。

 剣を使う者、術を使う者、拳を使う者……そんな様々な者達が居る中、最も好戦的な黒騎士はオレの隣に居る桜鬼だろう。


 「サクラ」

 「はい、何でしょうか?兄様」

 「お前が思う中で、一番早くこの場の戻って来るのは誰だと考える?」

 「黒騎士の中で、という事でしょうか?……そうですね」


 彼女は少し考える仕草をし始め、思考を働かせている。こうして普通にしていれば、美しい鬼として他の者達から好かれるというのに。彼女は苛立った瞬間、性格が豹変ひょうへんするというよりかは素に戻る。

 普段から取り繕っている性格は話し方とは裏腹、傍若無人ぼうじゃくぶじんで荒々しい口調と性格となる。この性格が恐らく、彼女の本当の姿だと思った方が良いだろう。

 人間と同じく、表と裏を合わせ持っている。そういう事だろう。


 「兄様、それは私の考えを前面に出しても宜しいのでしょうか?」

 「それで構わない。お前の考えをオレに教えてくれ」

 「そうですね。癖のある者達ですから、それぞれに可能性はあるでしょう。ですが、均衡している力の差を埋める機会でもあります。これを機にして、私は兄様に忠義を示すようにして欲しいですね。なので、あの者達の中で一番に戻って来る者は全員という事を望みます」

 「……」


 全員戻って来る事を望むとは、少し意外な印象を受けざるを得ない。何故なら黒騎士達は、オレに忠誠を誓っている事は重々に承知している。だがしかし、黒騎士同士の仲はそれ程に良くは無い。

 その中心人物でもある彼女も例外ではないが、それでも「全員」を望むというのは意外と思ってしまう。仲は決して良いとは言えないが、それでも均衡している能力を知っているからこその信頼の表れだろう。


 「では示してもらうとしようか。オレへの忠義とやらを」

 「お任せを。――我がみことの言葉を届けよ」


 再び術式を展開する桜鬼は、指定した範囲内に声を届ける方陣を拡大させる。恐らく今、この町の空中にオレと桜鬼の姿が映し出されている頃だろう。

 オレは部下である黒騎士達は勿論、幽楽町に暮らす者達と鬼組の者達を見据えながら一言だけ告げた――。


 「オレに忠義を示せ。期待しているぞ」

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