第23話

 「――生きておられますよ、焔鬼様は」

 「っ!?」


 左近と名乗った彼女はそう囁き、私に背後から凭れるように体重を乗せてくる。だが彼女には体重が無いのかと思う程、乗せられる重さには何も感じなかった。ただ肩を掴まれ、身体が密着していると感じるだけだ。

 だがしかし、重さを感じられないから違和感を感じてしまう。まるで、彼女がそこに居ないのではないかという錯覚をしてしまう程に。


 「生きてる?ほーくんが?」 

 「えぇ、生きておられますよ。信じるも信じないもご自由に」

 

 そう言って左近は私から離れ、口元に指を添えて笑みを浮かべた。


 「私の存在はあくまで影。焔鬼様とお会いしたいのであれば、をしない事をオススメ致します。では、さようなら」

 「ま、待って!」


 姿を消そうとした左近に手を伸ばした私だったが、寸前の所でその手は届かなかった。私はガクッと膝から落ちてしまい、その場で足元を見つめていた。

 彼が生きている。それは本当なのだろうか?それとも嘘なのだろうか?その二択が私の脳内でぐるぐると渦巻き、希望と絶望の間を右往左往している。


 『ゆ、由良先輩!?どうしたんですか?具合でも悪いんですか!?』

 「あ、うん。大丈夫大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから、あはは」


 崩れ落ちていた私の姿を見て、廊下を通ろうとしていた生徒が駆け寄った。心配していると一目で分かる程、その生徒は思いやりに溢れていると感じた。だが私は保健室へ行くという提案を断り、荷物をまとめて早退という選択を選んだ。

 全ては、このモヤモヤを払拭したいが為に。


 「……まずは、と」

 

 私はそう呟き、学校を後にしたのである。

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