第14話

 唐突だが、この世界には「表」と「裏」が存在する。人間は建前と本音を合わせ持ち、それを自在にコントロールをしながら日々を過ごしている。それでも上手く立ち回れる者と立ち回れない者と分かれるだろう。

 前者は表と裏を交互に使い分け、自分なりの過ごし方を見つけられた者。後者は使い分ける事が出来ず、片方だけが尖ってしまった者というべきだろう。

 だがしかし、この両者は同じ人間の物であって別々の人間の事でもない。全ての人間が持つ可能性であり、全ての人間が持ってしまった呪いだと言えるだろう。まさに表裏一体、切っても切れない存在が「表」と「裏」である。


 「……」


 そしてこの世界にも、その「表」と「裏」が存在する。人間が住まう世界を表、すなわち「現世げんせ」と呼び、餓鬼――つまり鬼が住まう世界を裏、「魔境まきょう」と呼ばれている。

 餓鬼はその魔境から人間の持つ負の感情に誘われて現世に出現する、と古くから伝えられている。人を喰らい、鬼は人間の姿を持つとも言われている。


 ――二年前である。


 当時、鬼組総大将だった神崎焔の協力によって現世と魔境を繋ぐ門「鬼門きもん」は破壊された。そして現在、妖怪と人間が協力して得た平和は続く中で、世界の歯車はまた動かし始めていた。

 それに気付かないまま、人々は束の間の平和を謳歌しているのである。


 『ねぇ、兄様あにさま?』

 「どうした、桜鬼おうき

 『もう、二人きりの時はサクラと御呼び下さいとあれほど申したではありませんか!』

 「あぁ、そうだったな。それでサクラ、オレに何か用だったか?」

 『あの門、そろそろ壊しても良いのではありませんか?父上様も、気は熟したと言っておられますし』

 「そうだな。お前の言う通り、そろそろ破壊しても良いかもしれないな」


 そう言葉を交わす者達の目の前には、数千……数万を越える餓鬼とあやかしが跪いていた。サクラと名乗る鬼、桜鬼はニコリと笑みを浮かべて隣に居る人物の腕に抱き着いた。

 そんな行動を見つめ、目を細める鬼は……白く長い髪を揺らし、そして燃えるような紅い瞳をしていたのであった。

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