第140話 最強弱者

「フッ、法則改変ね……でもそんなの関係ない。ボクが勝利するのは決まっていることなんだ」


 正直言って、帝星堕夜みかぼしおちやが今回の結果を法則改変系能力によるものと見破ったのは称賛に値する。

 マスカレードが使用した法則変更チートはそれぐらいレアな能力なのだ。

 背後に相当優秀なバックが控えているに違いない。

 そんでもって完璧に近いチートコンボも組んでいる。


 しかし、だからこそ応用力がない。


 未来歩行チートがそうだったように能力の正体が不明、というのはそれだけで脅威であり。

 逆に手の内が完全に見えていれば、どれだけ強力で完成度の高い能力を持っていたとしても、俺の前では雑魚に成り下がる。


 帝星の脅威度は異世界の守護者パイセンやアディは言うに及ばず、マスカレードとは比べるべくもない。

 難しいかもしれないが、やり方次第では三崎でも勝てる可能性がある。

 帝星堕夜は典型的なチート能力依存の最強弱者……それが俺の見立てだ。


「帝星、そろそろお互いダイスを振ろうぜ。次は俺とお前が出る気がするよ」


 さてと。

 そろそろ神の遊戯パーティも詰めの時間だ。

 これ以上ない舞台の上で、自分自身の絶対的勝利を信じながら、思う存分に踊ってくれ。

 俺とお前の戦いの終わりが、このくだらない茶番劇の真の姿を暴き出す……幕引きの合図となるだろうからな。


「フン……安い挑発だ」


 帝星が賽子を振った。

 出目は帝星みかぼし


「むっ……」

「こっちもだ」


 俺の振った出目も、俺自身。


「運命操作系? あるいは確率変動系か……?」

「さあな」


 深読みしてくる帝星に肩を竦めてみせる。


「時間操作系だよねー……」

「お前はいいから黙ってろ、三崎」


 まだ再生が終わってないんだから。

 あと小声とはいえ情報漏洩すんな。

 帝星は聞いてなかったみたいだけど。


 ともあれ、舞台には上がった。

 しかし帝星は定位置から動いておらず、その視線は俺が振った賽子さいころに固定されていた。

 まるで信じられないものを見たかのように、双眸を見開いている。


「……お前の名前はサカハギというのか」

「ああ、通りすがりの異世界トリッパーの逆萩亮二だ。よろしくな」


 気さくに挨拶を返してみたが、帝星はますます顔を歪ませる。


「そうか……お前があのオメガ級災厄……」

「あん? お前、ひょっとしてアンス=バアル軍の――」

「そのとおりだ。改めて自己紹介をさせてもらおう。スクールの生徒会長、帝星堕夜みかぼしおちやだ。逆萩亮二……みんなの仇を取らせてもらうぞ」

「……へえ?」


 復讐を志す未来ある若者ってわけか?

 その割にはあんまり怒ってるようには見えないが。

 スクールってのが何かは知らないけど、生徒会長って肩書からして『クラス転移』したチート能力者を集めた組織かな。

 そんな連中と遭遇した覚えはこれっぽっちもないが、俺の攻撃に巻き込まれでもしたのかね。


「試合形式は殺し合いで構わんな?」


 ようやく舞台に上がった帝星が確認してくる。

 やはり仲間を殺された怒りに身を任せているって感じには見えない。

 むしろ俺の挑発を流し、完全に冷静になったようだ。


「そうだな……」


 顎に指をあてて、わざとらしく思案する。


 はっきり言って、それでもいいんじゃないかって気はする。

 既に遺恨はできてしまっている以上、ここでひとりぐらい追加で殺したところで同じことだ。


 とはいえ、少し気になることもある。

 実を言うとさっき手帖を使った際、帝星の名前を書き終える直前に俺に向かって『即死チート』による不可視の即死効果が飛んできた。


 『即死チート』はその名のとおり、対象を即死させる能力だ。

 対象は生物だけじゃなく物質から概念までと幅広く、能力者の発想次第では時間を殺すなんて真似もできたりする。


 発現方法は能力者ごとによってさまざまだ。

 呪詛による単純な即死効果を与えるものもある。

 心臓を絶対に貫く弾丸を発射できる能力なんてのもある。

 異世界の守護者パイセンのように『相手が絶対に死ぬ炎』を出して命中した相手を即死させるなんて中二病くさいのまで実に幅広い。


 強力な能力であることには違いない。

 だが『死を与える』以上のものではないためアンデッドには効かない。効くようにするには別途、不死殺しチートが必要になる。

 あとは即死耐性がある相手に通じない。耐性を突破するなら別途、耐性貫通チートが必要となる。

 それでも能力に定められた特定の回避方法を満たせば防げたりと、何かと弱点も多い。


 本来なら即死チートよりも弱いはずの即死魔法を俺が使っているのも、そちらの防御貫通性能の方が高くなってしまったからだ。

 だから俺の即死チートは死神手帖にカスタマイズチートで付与するなどして使っている。効果はもう知っての通りだ。


 そういう意味でも相手の存在そのものを根底から消し去る『存在消去チート』や、すべての存在に定められた『終焉』を迎えさせる『終焉チート』の完全下位互換であると、俺は見なしている。

 ちなみに後者の『終焉チート』に至っては全宇宙で唯一無二であり、俺ですら所持していない。


 ともあれ『即死チート』の能力使用者は帝星だった。

 いつもどおり普通に喰らってみたものの、どうやら彼の持つ不死殺しチートでは俺の不老不死チートを突破できなかったようで即死効果は無効となった。

 しかも「やる気かな?」と手帖を見たまま視覚だけ転移して確認してみると、死ぬ直前まで帝星本人は自身の即死チート発動にまったく気づいていない様子だったのだ。


 そういうわけで、ちょっと揺さぶってみることにした。


「それなんだが……『お互いに相手を殺したら負け』っていうのはどうだ?」

「相手に負けを認めさせた方の勝ち、ということか? フッ……断固拒否する。ボクはお前を殺してやりたいからな」


 まあ、そうだよな。

 即死チート使いにとって不殺試合は都合が悪いことこの上ないはず。


「じゃあ、お前は俺を殺すことができたら勝ちでいいよ。殺すことを諦めたら負けな。で、俺はお前を殺しても負けってことでどうだ?」

「舐めてるのか!」


 俺を仲間の仇だと糾弾したときより、露骨に怒りをあらわにしてきた。

 そして、俺の目をジーッと睨んでくる。


(こいつ……ひょっとしてボクの能力を知っているのか? いや、ステータスは偽装されている……ただの一般人にしか見えないはずだ。この条件は明らかにボクにとって有利……飲まないとボクの能力を見破られるかもしれない。まあ、見破られたところで対処できるわけでもないけど)


 とか、うだうだ考えてそう。


「まあいい、その条件を飲んでやる」


 あ、やっぱり乗ってきた。


「そうか……だいたいわかった」


 今のところ、事前に鑑定眼で視たとおりっぽいな。

 

(フン……まあ、どちらにせよ同じだ。どうせ殺さないよう苦しめて参らせようって魂胆なんだろうが……)


 って考えてそうな顔してる。

 ほんとわかりやすい奴だ。


 よし、決めた。

 参加者は全員助けるって決めてあるし、こいつは殺さない。

 その代わり、バッキバキに心を折る。

 言い訳のしようのないレベルで敗北を味わわせ、能力も二度と使用できないよう再起不能にしてやろう。


 そうなると、俺に即死が効かないって知られるよりは――


「じゃあ、決まりだな」

「それでは試合開始ー★」


 御遣いが笛を吹くのと同時に俺はアイテムボックスから聖銀銃を取り出し、あることをしながら即座に撃った。

 弾丸は舞台の石畳で弾ける。


「フン……威嚇射撃のつもりか?」


 余裕の態度で前髪をかきあげる帝星。


(無駄だ。威嚇であっても、それはボクを恐怖で従わせようとする意思……害意に他ならない! これで……いや、おかしい。即死カウンターが発動してないぞ? はっ……そうかこいつ、目を瞑って当てずっぽうで撃っているのか!)

 

 しかも気配を探っているわけですらなく、なんとなく撃っているだけだ。

 さらにそのまま何発も乱射していく。

 聖銀銃の弾は無限だ。弾切れを気にせず撃ちまくる。


(こいつ、まさかボクの能力を!?)


 鑑定眼でも帝星の即死チートは『カウンタータイプ』に視えていた。

 しかもどうやら攻撃が行われる直前で対象を殺害して攻撃そのものを無効にできるらしい。

 ただ、手帖に名前を書いたときの即死カウンターの発動に帝星は気づいていなかった。

 つまり、こいつの能力は――


(だが、目で見てないっていうなら、後ろに回り込んで直接攻撃してやる!)


 格闘攻撃を仕掛けようとしてくる帝星の接近に合わせて目を開くと、帝星の驚愕した顔が見えた。

 帝星の方向を振り向き、今度は目を開いたまま何発も撃つ。

 その後も回り込んでこようとする帝星の方に銃弾を撃ち込んでいく。


(こいつ、瞳孔の開き方からしてボクのことを見ちゃいない!! もっと遠くを見てる! いや……それでもおかしい。ただ単に視界に入れないとかいう屁理屈で即死カウンターを免れることはできない。ボクに偶然弾丸が当たればいいと思ってるなら、それはもはや未必の故意! 願望を読み取った時点で即死カウンターは発動する! そこまでボクの『自動勝利』は甘くない! なのに……何故!)


 考えろ考えろ。

 俺の誘導するまま正解に行き着け。


(眼中に、ない? どうでもいいと思っている……っていうのか!? ボクのことを! そんなことが可能なのか。普通の人間にそんなことが! 視界に人が入れば普通、無意識に脳が処理する。だから人間同士は人込みのなかでもぶつからないんだ。それに、仮に認識自体してないっていうなら……いったい、どんな能力を使って――)

「いったい、どんな能力を使ってるんだって思ってそうな顔してるな」

「ッ!?」


 はっきり告げてやると、帝星があからさまに怯んだ。


「別に能力なんか使ってないぜ。こんなのはただの工夫だよ。訓練次第で習得できる」

(こいつ、ボクの心を――)

「心なんか読んじゃいない。俺の言動に対する反応を予測して……こんなこと考えてるんじゃないかなって推測してるだけだ。同じゲームを何度もやりこめば、ボスの行動パターンもわかるようになるだろ? それと同じだ」

「ふざけるな。現実がゲームが同じなものか!」


 ごもっともだがお前が言うな。

 むしろ、お前のような最強弱者と戦うためには必要な技能だったんだ。

 とはいえ……当てずっぽうのお祈り射撃が効率のいい戦闘方法じゃないのは間違いない。

 そろそろ次に進むとしよう。


「レッスン開始だ、生徒会長。お前のような奴らと逆萩亮二おれがどうやって戦ってきたのか見せてやる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る