第77話 邪神復活

 おおよそ30年前、ミーティル王国はザシャルディン帝国によって征服された。


 ラタ老の話によるとその少し前、シーラ・エスティリアは禁書庫の司書という重要な役目を担っていたという。

 しかし帝国に征服されれば禁書庫の知識は若く野心溢れるザシャルディンの皇帝に利用される……そう予想したミーティルの王の命令により焚書が行われることが決定したが、シーラはこれに反対した。


 ここにつけこんだのが邪神の力を手に入れようと地下で暗躍していた不死王ネウリード。当時既にリッチになっていた古代の魔術師だ。

 この機会を好機と捉えた不死王はシーラを言葉巧みに誑かしラタ老と契約させ、さらに邪神に関する本を禁書庫から持ち出させることに成功する。

 しかし、このとき趨勢は決しており、王都には帝国軍がなだれ込んできていた。不運にもシーラはネウリードの下に走る最中にエリクとはぐれてしまう。


 おそらくエリクはこのとき帝国兵に殺されてしまったのだ。


 結果的に禁書を含めて図書館は一部の支配者層だけが利用する施設となり、王立図書館は帝国図書館へと名を変えた。


「つまり、アンタの息子……エリクも昨日今日死んだわけじゃない。30年前に死んだってわけだ。まあ、俺が勝手に勘違いしたんだから、誰も責められないけどさ」


 ラタ老の話を聞いて召喚された場所を調べたら、なんとびっくり。瓦礫に挟まれた死体は女の子のゾンビだった。

 エリクがついさっき死んだという情報すら、俺の思い込みだったのである。


「エ、エリクですって!? 嘘よ! あの子が生きてるはずがない!」

「やっぱり……っていうか、何も聞いてないんだな。いや、お前らふたりとも目的のためだけに動いてただけか」


 ネウリードが欲したのはシーラの持っていた禁書を解読する能力だけ。あいつもエリクがどうなってるかなんて興味なかったんだろう。

 とはいえ、こちらに憎悪の籠った視線を投げかけてくるシーラも一方的に利用されるだけの立場じゃなかったようだ。


「そもそもエリクの名前をどうやって知ったというの? まさか、あの子も私と同じようにアンデッドに?」

「察しがいいな、そのとおりだ。会わせてやってもいいが、条件がある」

「ふざけないで、この鎖を解きなさい。今すぐに!」


 シーラが何かを思い出したように嫣然とした笑みを浮かべ、俺の瞳を凝視してきた。

 ヴァンパイアお得意の魅了の視線ってやつだろう。ロードやエルダーですらないただのヴァンパイアの魅了ですら、普通の人間を完全な従僕とすることができる。こうやってヴァンパイアは魅了されて無抵抗となった者の血をすすり、眷属を増やすのだ。


 とはいえ、チート能力ですらないヴァンパイアの特殊能力が俺に効くはずもない。

 パァンと何かが弾ける音と共にシーラの魔力が霧散した。


「そ、そんな……」


 自分の魅了がレジストされるのは初めての経験だったんだろう。

 呆然自失の表情を浮かべるシーラに歩み寄りながら、俺は気安く笑いかけた。


「慌てるなよ。俺はアンタの復讐を手伝ってやろうっていうんだぜ? しかも、愛しい息子に再会できるっつーオマケつきだ」


 無造作に聖剣を取り出す。

 自分に滅びをもたらすに足るアーティファクトと悟り、シーラは歯噛みした。


「さあ。俺を手伝うか、ここで塵になるか。好きな方を選びな」




 城を出て、中央広場跡へと向かう。

 道中シーラが裏切ろうとするたびに先手を取って封殺しつつ到着すると、そこには巨大で虚ろな大穴が口を開けていた。

 街中にゴーストがあふれ出してきたという大闇穴だいあんけつからは今も無数のゴーストどものうめき声が聞こえてくる。


「……ここに何があるというの?」


 シーラが警戒しながら眉をひそめる。俺が迷わず穴に飛び降りて浮遊魔法で落下速度を緩めると、同様の手段でついてきた。

 死霊どもが跋扈している地帯に突入したが、例の護符を首から下げているのでゴーストたちの方が勝手に俺を避けていく。上級アンデッドであるシーラには、そもそも寄りつこうとしない。


「この穴は星の経絡けいらくだ」

「星の経絡……?」

「まあ、世界の核とでもいうべき場所に続く地下回廊……とでもいうか。エネルギーの通り道だ」


 ここの街はもともと星の経絡の上に作られていた。

 霊脈とか龍脈とか呼ばれる土地は経絡と重なる事が多いから別に珍しい話じゃない。


「ここに来るまでの間、どうにも都合がいい展開が多くてな。レールの上を歩かされた気分なんだ。俺が特に何もしなくてもアンタと俺はここに来てたんじゃないかってぐらいにな」


 てっきり俺はステラちゃんが星の意思としての力を使って、俺を導いてくれてるんじゃないかと思っていた。

 これもやっぱり半分が正解で、半分は間違っていたのだ。


「神と星の意思はまったく別種の存在だ。神が形而上の超越存在だとしたら、星の意思はあくまで世界に血を巡らせる心臓だ。でも稀に。ごくごく稀に、神と星の意思は融合することがある」


 ステラちゃんのような転生者でもない限り、星の意思は自我を持たない。

 臓器が意志を持たないのと同じだ。仮に知能があっても植物や動物どまりである。

 だから神と世界の意思が融合してしまったとき、その意識はほとんど神が乗っ取ることになる。


「実を言うと今回がそうだ。この世界は封印された邪神と融合してるんだよ」

「世界と邪神が融合……ですって!?」


 これもラタ老からの聞きかじりだが、邪神は太陽神によってこの地に封じられたのだという。

 複数の次元にまたがる上位邪神が相手では神々も完全に滅ぼすことはできず、封印という手段を頼るしかなかったらしい。異世界ではよくある話だ。


「神々は霊地として最適だったから、この地に邪神を封印した。でも邪神は神々の予想よりしぶとかったみたいだな。何千年も前から少しずつ世界を侵蝕し、最終的には世界そのものと融合したってわけだ」

「どうしてそんなことが断言できるの?」

「世界が正常だったらアンデッドなんて星の経絡を通るエネルギーの余波で全部吹き飛ぶに決まってるんだよ。なのに、この地獄絵図だぞ?」


 魑魅魍魎のはびこる空間をテキトーに指差しつつ肩を竦めてみせると、シーラが表情を厳しくした。

 負のエネルギーを司る邪神と星の意思が融合した結果、星のエネルギーのプラスマイナスは逆転しつつあるのだ。


「つまり、私達のしてたことは……」

「ああ、裏に邪神の策動があったってことだな」


 たとえネウリードとシーラが今回の事件を引き起こさなくても、この世界は遅かれ早かれ死人が歩く世界になっていただろう。

 しかし30年の猶予を30日に短縮するだけのインパクトが、今回の事件にはあった。そこに邪神の意思が介在していないと考えるのは、いささか楽観的すぎるだろう。


「前置きが長くなって悪かったな。要するに、俺とアンタは邪神の意思に導かれてここにいるってことを言いたかったんだ」

「それが……その話がエリクと何の関係があるっていうの!?」


 業を煮やしたようにシーラが食ってかかってくる。

 さして気にすることなく、俺は淡々と事実を告げた。


「あの子の霊は不死王に支配されてなかった」

「えっ……」


 言葉の意味するところを理解し、シーラが絶句する。

 俺が召喚された時点ではネウリードがアンデッドをすべて支配していた。アイツを倒した後だからこそ、ほとんどのゴースト達は理性化していたのだ。ゾンビに追われたおっちゃんなんかは一見すると人間のように振る舞っていたし、司書ゴーストに至っては業務を粛々とこなしていた。


 でも、そう考えたときにひとつ、大きな矛盾が生まれる。


「不死王の支配下にあるゴーストが母親に会いたいなんて願いで俺を召喚できるわけがないし、かといってただのゴーストが不死王の支配から逃れられるわけもない。前提からしておかしいんだよ。つまり――」

「貴方まさか……エリクが邪神の加護を受けていたとでも言いたいの!?」


 信じがたい事実に赤い双眸を見開くシーラに、俺はニヤリと笑い返した。


「そうさ。エリクは不死王を超える上位存在によって守護されていたとしか考えられない……ああでも、それならまだいい方だな。むしろ、エリクが邪神の御子だって断言した方がしっくりくる」

「エリクが邪神の御子ですって!? そんな、馬鹿な……」


 どうやら邪神の御子についてはシーラも知識として知っていたらしい。


 邪神の御子は邪神復活のために活動する強大な力を持つ存在だ。邪神復活のために活動する魔王なども、だいたい邪神の御子である。

 だけどエリクは御子に覚醒する前に戦禍に巻き込まれて死んでしまった。ひょっとすると帝国はエリクの存在を太陽神あたりから予言として聞いていて、御子抹殺のために王都を侵略した可能性すらある。御子が歴史の表舞台に現れる前に消される……これも神々の間ではよくある駆け引きだ。

 しかしだからこそ、邪神はネウリードやシーラを利用して今回の事件を引き起こしたのだ。邪神の御子であるエリクの霊を地上で活動できるようにするために。


「エリクが後天的に邪神の御子になった可能性を示すものがある。これだ」

「ワレヲアガメヨ……」

「それは邪霊祭祀書!?」


 アイテムボックスから不死王が落とした禁書を取り出すと、シーラが驚きの声をあげた。


「ああ、アンタが命からがら禁書庫から持ち出した本だよ。邪神の真名が記された魔導書……そして、エリクが生きてたときに誤って読んでしまった本……そうだろ?」

「そんな……まさか、あのときに……」


 シーラがエリクを禁書庫に連れて行った経緯はわからないが、エリクは悪い神の本を読んだと証言している。そのとき邪神によってエリクが見初められた可能性は極めて高い。あるいは、元々邪神の御子だったエリクとリンクするために、星の意思と融合した邪神が星の意思としての力を使い、運命を操作したのかもしれない……。


「でも、ネウリードは邪神を復活させようとしていたんでしょう!? エリクが邪神の御子だとしても、別に何もしなくてよかったんじゃないの?」

「神官でもない不死王がそこまでするわけないさ。アイツは邪神の力を思うがままに引き出すための知識や禁呪が欲しかっただけだ」


 神の真名の記された魔導書は魔術師……つまり不死王ネウリードにとって大きな価値を持っていた。

 邪神の力を借りる魔法が何倍も強くなるし、さらに邪神の眷属も思いのままに操ることができる。無限に等しい魔力も手に入るし、魂の代償もノーライフキングになるほどの存在なら他人の魂でいくらでも賄える。

 この魔導書の起源は封印された邪神の力の一部である。禁書庫で保管されてたのも納得だ。そして邪神に操られることなく力を振るうためには禁書庫の司書の力が必須だったからこそ、シーラは不死王と協力できたのである。


「アイツが邪霊祭祀書を手放すとは思えない。それを持っているということは……貴方、本当にネウリードを倒したのね」

「ああ、やっぱりまだ信じてなかったか。最初にこいつを見せれば話は早かったな」


 ともあれ邪神はネウリードを信用していなかったのだろう。神秘を研究する魔術師は元来、神の崇拝からは程遠い。魔術神に魔法の成功を祈ることはあっても、神官まで兼任することはほぼないと言っていい。信仰魔法を使える魔術師が賢者と呼ばれることはあっても、秘術魔法を使える神官は神官であり、魔術師ではない。


「さて、ついたぜ」


 巨大な赤黒い丘の上に、ステラちゃんとエリクが手を繋いだままぼうっと突っ立っている。

 結界を張って邪神がふたりに手を出せないようにしておいたんだけど、何事もなかったようだ。


「ああ、エリク!」

「ママ!」


 丘に降り立ったシーラが一目散に息子の下へ駆け寄っていく。

 当然、俺の結界は親子の再会を邪魔するような無粋な真似はしなかった。


「感動の再会……なのかね、一応」


 死霊接触魔法を使って抱き合う母子にステラちゃんは笑顔を浮かべていた。

 しかし、親子が再会しても俺は次の世界に召喚されない。

 当然だ。俺を召喚したのがエリク本人の意志でない以上、これで誓約を達成できるわけがない。


 憂鬱な俺の気分を知ってか知らずか、シーラが涙を浮かべながら顔を上げた。 


「ありがとう。なんて感謝したらいいか」

「気にするな。アンタをここに連れてきたのは、俺がこれからすることを手伝ってもらうためなんだから」

「いったい何をするつもり?」


 怪訝そうに首を傾げるシーラに、俺は感情を込めずに告げた。


「決まってるだろ。邪神復活だ」


 俺を召喚したのは封印されし邪神だ。ならば願いは邪神復活しか有り得ない。

 ステラちゃんが常に俺に道を示してくれたのも、ずっと手を繋いでいたエリクを通して邪神が道を示していたと考えれば、すべての辻褄が合うのだ。


「災厄の邪神ハザデを!? そんなことをすれば今度こそ世界は滅ぶわよ!」

「おいおい、今更アンタがそれを言うのか? こんな世界、滅んでしまえばいいと思ってたんじゃないのかよ?」


 シーラの反応に思わず呆れて少しきつい言い方をしてしまった。

 あたかも憑き物が落ちて改心したかのように見えるシーラが、俺にはとても滑稽に見えたのだ。


「それはそうだけど……」


 言葉を詰まらせ、ぼうっとしたエリクの瞳を見つめるシーラ。

 当のエリクは「どうしたの?」と首を傾げている。結界で邪神の影響を遮断していなければ「ママ、邪神を復活させて!」ぐらいの介入はさせてきたかもしれない。


「そこにいるエリクは、エリクの記憶を綴っているだけのゴーストだぞ? アンタが愛した息子が生き返ってるわけじゃない。仮にそうだとしても最愛の息子を奪われた事実が覆るわけでもない。アンタの復讐は終わってなんかないんだぞ?」


 邪神の御子に覚醒する前に死んだから母親に甘えたい盛りの子供のように振る舞うが、エリクは邪神の利益のためだけに行動する舞台装置に過ぎない。


 悲しそうにこちらを見ているステラちゃんが永遠に子供らしい子供であるのと同じだ。

 決して変わらないし、変われない。

 生きていない。死んでいるのだから。


「それでも……それでもこの子は、私の子よ! ここにこうして存在してるのに、復讐なんて無意味だわ」


 シーラがわめき散らしながらエリクを抱きしめる。


「息子を殺した帝国に復讐するなら、邪神の復活は歓迎……そう思ってたからこそ、不死王に協力してたんじゃないのか? 息子をそんなふうにした人間どもが憎くないのか?」


 いつになく饒舌な俺の言葉にシーラは耳を貸さない。エリクをぎゅっと抱きしめたまま無言を貫いていた。


「ゴーストでも息子が帰ってきたら復讐なんてもうどうでもいいってことか。これまで何人も殺してきただろうに、ずいぶんと虫のいい話だ」

「何とでも言って頂戴! とにかく、邪神の復活は手伝えないわ」

「要するに息子が一番って言いたいんだろ? まったく、母親ってやつはどいつもこいつも同じことを言いやがる……」


 別にそれを責めるつもりはない。

 母親という生き物は俺とは違うんだろうなと、憧憬を覚えるだけだ。

 元から自分の復讐観を他人に押し付けるつもりはない。


「貴方も子供ができればわかるわよ」

「……そうか、じゃあ一生わからないな」


 俺の返しをどうとったのか、シーラがきょとんとしている。

 そう、確かに。子育てを放り出すような俺に親として誰かに口出しする資格なんてない。

 だから、この親子と話せることはもう何もないのだ。

 やる気が失せたのなら、無理に手伝ってもらう必要もない。


 このふたりと会うことは二度とあるまい。

 だから、最後は気になったことを聞いた。


「どうせなら、ちゃんと生きてる息子に……アンデッドとしてではなく、人間として再会したいと思わないか?」

「何を言ってるのよ……そんなこと、不可能だわ」

「そうか」


 不思議と込み上げたおかしさにふっと笑い、俺はシーラの肩を軽く叩いた。


「もし、アンタが人生をやり直すことがあったら、今度は息子の手を離すなよ」




 その後、ふたりを次元転移チートで地上に送り届けてから、ステラちゃんを手招きした。

 テコテコと笑顔でくっついてくるステラちゃんの頭を撫でる。


「まったく、やられたよ。俺としたことが邪神の手の平の上で踊らされて、ましてや復活のために働かされる羽目になるとはな」


 赤黒い丘の上。

 邪神の書物のページをパラパラとめくりながら、誰ともなく語り掛けた。


「餞別にいい事を教えてやるよ、邪神さん。星の意思と融合した時点でアンタはもう神じゃない」


 俺が言葉を投げかけるのは足元の赤黒い半球。

 これが封印されし邪神の神体。

 エリクという目と耳を失った今、神体に俺の言葉を聞き届ける機能はないかもしれないが気にしない。


「アンタは復活したら最後、星の魂を取り込み続けないと存在を維持できなくなる。だから今後、この世界を喰い尽した後は別の異世界のある次元宇宙に渡って星々を喰らい続けないといけない。常に飢え、常に喰う、そんな存在に成れ果てるのさ」


 邪神復活の儀式をもろもろのチートで生贄やら何やらを大幅省略、本来シーラが行うべきだったプロセスもすべて自分だけでやり遂げる。最後にハザデの真名を記した書を神体にくべると、気持ちの悪い触手が伸びてきて取り込んでいった。


 復活の手順はすべて終了し、地響きとともに神体が蠢き始める。


 耳障りな咆哮が大闇穴だいあんけつの中に轟き渡った。

 地上全体にも届いたであろう破滅の叫びは、自分を封印した神々への復讐に歓喜してのことか。

 あるいは生きとし生けるものを滅ぼし尽くせる愉悦ゆえか。

 そんなもの、どっちでもいい。

 邪神の心中など知ったことではない俺は、誓約達成で足下に現れた転移魔法陣にも構うことなく話を締めくくりにかかった。


「ところで俺は神が嫌いなんだ。創世神だろうが、豊穣神だろうが、破壊神だろうが、災厄の邪神だろうが関係ない。とにかく大っ嫌いなんだ」


 ニヤリと笑いながら、俺は神体に手をつくと。

 邪神ごと、天空へと転移した。




(ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!)


 空気のないはずの空間に耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。

 いいや正確には邪神の絶叫は俺の精神へ直接苦痛を訴えていた。


(どうだい、星から切り離された気分は。おっと、アンタにとってはそれどころじゃないか)


 邪神本体に念話を送りながら、肩を竦める。


(ゲィィイイイイイイイイイッ!? ナ、ナゼエエエエェェッ!? ワレヲ、フッカツサセテ、オキナガラアアアアア!!)


 俺の結界に覆われた赤黒い石の塊のような姿の神体がところどころから煙が噴き出し、焼け焦げていく。

 それもそのはず、俺は邪神ハザデの神体を地下から星の大気圏外、宇宙へと放り出し……太陽の光をもろに浴びせているのだ。

 ここには太陽の光から身を守る方法なんて、ひとつもない。結界も光を素通しするように設定しているから、太陽の聖属性も直撃である。

 ちなみに俺とステラちゃんは各種放射線に対する完全耐性があるのはもちろん、呼吸不要チートもオンにしてあるから何の問題もない。

 

(アンタは死の権能を司る、負の概念持ち。聖属性はただでさえきついのに、アンタは太陽神に倒されたっていう逸話まで持っちまってる。だから太陽に直接落としてやっても良かったんだけどな。それじゃ、俺の気が済まん)

(フザケルナアアアアアッ!! ニンゲンフゼイガ、チョウシニ、ノリオッテエエエエエ!!!)


 無数の触手を伸ばして俺の監獄結界をガンガンと攻撃する。

 もちろん、俺の自己領域チートで作った結界はびくともしない。

 俺の結界からの脱出は、あのエヴァですらできないのだ。

 たかが並行世界遍在型上位邪神如きが打ち破れるはずもない。


(ただの邪神なら別に俺を利用するぐらい大目に見てやっても良かったんだけど。アンタ、星の意思と融合しちゃっただろ? さっきも言ったが星の意思と融合した時点でもうアンタは神とは言えない。俺達がそういう存在をなんて呼ぶか教えてやるよ)


 自分の中に静かな殺意を湛えながら目を細める。


界喰かいはみだ)


 界喰みというのはその名のとおり、星を喰らう存在だ。

 宇宙怪獣だったり、実体のない侵蝕型概念世界であったり、隕石のような形態で星に落ちて地下深くに潜伏する超進化生命体だったり、 ハザデのように星の意思と神が融合進化を果たした存在だったり、姿も形も在り方すらも千差万別である。

 共通しているのは星のエネルギーを喰い尽し、また喰うために別の星へとハシゴし続ける点だけだ。


(悪いけど、古いダチとの約束なんでな。界喰みだけはどんな代償を払うことになっても必ず滅ぼすことにしてるんだ)


 物語に登場する聖騎士がそうするように、俺は胸の前で握りこぶしを作って誓いを立てた。


 


(誓約。逆萩亮二は我が永遠の友アルトリウスとの約定に従い、界喰みとなった邪神を完膚なきまでに討ち滅ぼす!)


 ――召喚者の要請を破棄。代理の誓約を受け付けました。




 邪神復活によって果たされていた願いが無効となり、転移魔法陣が消える。


(そういうわけで目覚めたところ悪いんだけど早速死んでもらうぜ、邪神ハザデ。いや……真名、ハザード=ディストリウス!)


 その瞬間、時空を切り裂くような邪神の咆哮が轟いた。

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