【番外編】 side モラ

 おかしらが くろいぼうしを ぎゅっとかぶると しろくておおきな はねかざりが うなずくように ふわんとゆれた。おかしらは ニッとわらうと ピストルを くるくるまわして ストン ストンと ベルトに さした。


「よし、みんな準備はいいね? 出航の準備にかかるよ!」

「アイアイ、キャプテン!」


 いっせいに へんじをして みんな ばたばたと もちばについた。ぼくも いそいで ほを ひろげる じゅんびをはじめたら ぼくのとなりで ミストが おおげさに かたを すくめた。


「クレイとの旅から帰ってきて、ちょっとは女の子らしくなったかと思ったのに、やっぱりお頭はお頭だったね。すぐまた宝探しに出るなんてさ」

「彼女らしいけどね」


 ちいさく わらって ジュンが こたえる。うん ぼくも そうおもう。


「クレイもあの人相手じゃ色々苦労するよなぁ」

「いや、もう諦めてるだろ」

「お頭! 客人ですよ」


 ユーリのよびごえに おかしらだけじゃなく みんなが はとばを ふりむくと そこには ほかでもない クレイそのひとが たっていた。おかしらがパタパタと かんぱんを はしる。


「クレイ! 見送りはいいって言ったのに!」

「どうか我侭を許してください、私のジャヌアリー。貴女の航海の無事を、私にも祈らせてください」


 ふねの てすりから みをのりだして おかしらが クレイを みつめる。よあけまえの あおいかぜに ながいかみが ゆれる。

 おかしらは いっしゅん うつむいてから けれども ぐっと かおをあげた。


「何言ってるの、このあたしを誰だと思ってるの? ノースフィールド号の頭領、キャプテン・ジャヌアリーよ!」


 むねをはって しろいはを みせて わらう おかしらは いさましくて たのもしくて それに とっても きれいだった。そんなおかしらに クレイもわらいかえすと いつもみたいに ふかく あたまをさげた。


「ジャヌアリー、勇敢な海の民。多くの宝と勝利が貴女にもたらされますように」


 おかしらは ひとつ うなずいて けれど ふいに とおくを みると くすりとわらって ふりむいた。


「J。アンタにも来てるよ?」


 みれば みなとのむこうから あかいかみを ふわふわゆらして タイが かけてくる ところだった。タイは やっと ふねのそばまで たどりつくと あらいいきをついて ぼくらを みあげた。


「J! どうして言ってくれないの、今日出立だなんて聞いてない!」

「急に決まったものだったからな」


 タイが まっかになって おこっても Jは すずしいかおをしていた。タイは りょうてを にぎりあわせて しばらく こきゅうをととのえてから ようやくぽつりと ひとこと きいた。


「……待ってても、いい?」

「お前の元以外、私が帰る場所などあるか」


 Jが フッと わらってみせると タイは なきだしそうなかおで けれど わらって うなずいた。


「マンボウ!」


 とつぜん よばれて ぼくは びっくりして あわてて ふねのへりへ かけよった。ふねから みおろすタイは なんだか とても ちいさくみえて ぼくは なんにもいえずに タイの ながいかみや スカートが しおかぜにはためくのを ただ みていた。


「なんだか変な感じね。あたしが陸から、マンボウの旅立ちを見送るなんて」

「タイ タイ おみやげ いっぱい もってかえるからね。まっててね」

「気をつけてね。みんなどうか――気をつけて!」


 タイのあかいかみが きんいろに かがやいた。みれば おひさまが すいへいせんをふちどりながら そのすがたを あらわしていた。


 もえるような まっかな そら。きんいろの くも さざめく なみま。うみどりたちが ひくく とんで かぜが ふわりと せなかを おした。


 いこう。ぼくらも しゅっぱつしよう。あたらしい ぼうけん あたらしい あさ ぼくらは また ほを はろう。こわいかもしれない くるしいかもしれない だけど へさきをむけて。


「総帆展帆! 錨を上げな!」

「アイアイ、キャプテン!」


 ふねは きんいろのなみを かきわけ すすみだした。かぜをうけて。ぼくらをのせて。

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