第2話 つきの さかな

めが さめたら オーガストの うでの なかだった。

あったかい。

そおっと めを とじると なみの おとが きこえた。


ぼくは やっぱり もういちど めを あけると オーガストを おこさないように そろそろと ベッドから おりた。




かんぱんに でると まんてんの ほしぞら だった。たかく たかく まんまるい おつきさま。


ぼくは ふねの へりまで すすむと てすりに ひじを のせて うみを みた。なみは おだやかに ほしの またたきを うつしている。


ぼくの うまれた うみ。ぼくの そだった うみ。おだやかに ゆれる ひも あらあらしく たける ひも。ひとも さかなも。そらも うみも。ねえ きこえる? ぼくの こえ うみの うた。




  ヨーホー ヤホイ おれたち かいぞく

  ヨーホー ヤホイ かくごは いいか




ぼくの うたごえは なみの おとと かさなって よるの くうきに とけて ながれた。


と うしろから ふわりと ぼくの こしに おおきな うでが まわされた。


「オーグ」

「こんな所にいたのか」


ぼくは こくんと うなずくと そのまま こつんと オーガストに もたれかかった。やっぱり オーガスト あったかい。


「……続けろよ。お前の声、好きなんだ」


もいちど こくんと うなずいて ぼくは つづきを うたいはじめた。


うたって ふしぎだ。むねのなか いっぱいだった きもちが ふんわり ほどけて いくみたい。


ぼくの こえに あわせて オーガストも くちずさむ。やさしくて とうめいな うたごえは とても オーガストらしくて ぼくは ほっぺたが ぽかぽかした。




うたいおわってからも ぼくらは なんにも しゃべらないで ふたりで ただ うみを みていた。まんまるい おつきさまが よるの みなもに ぽっかり うつって まるで おつきさまが ふたつに なったみたい。


「お前みたいだな」

「ぼく?」


オーガストは よるのかぜに なびく まえがみを かきあげて とおいめで みなもを みつめた。


「最初にジャヌアリーがお前を捕まえたとき、お前、あんな風に海にぽかっと浮いてたんだよ。横になって」


そうだった。ぼく おひるねしてて。

それで おかしらに つかまって それを オーガストが たすけて くれたんだった。


「あの時は海に放したけど、」


オーガストが ぼくの かたを ぎゅって だきよせる。


「もう逃がすつもりはないからな」


うん! ぼく オーガストと いっしょにいる! ずっと ずっと いっしょにいる!


いつも いつまでも だいすきだよ オーグ。

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