第5話 ねがいごとは ひとつ
かいすいに しずみこんだ どうくつのなかを ぼくは ひたすら およぎつづけた。
ふかい。
くらい。
にんげんのままだったら きっと ここまで もぐれなかった。
ぼくは くろいカギを ぎゅうっと くわえて ひたすらに せビレと しりビレを うごかした。
そうして ぼくは さいしょに ぼくらが ボートで たどりついた たからのやま まで やってきた。うみのそこでも おたからは ゆらゆら きらきら ひかっていて ぼくは なんだか それを きれいだと おもうより こわいと おもった。
ふと よこを みれば あの とびらが あいたままに なっていた。ぼくの あたまに ジュンの ことばが よみがえる。
『聖なる乙女は夜明けの扉の向こうに眠る』
ぼくは おもいきって かじビレを ゆらすと とびらの おくへ およいで いった。
おおきな とびらを くぐりぬけた ぼくは おもわず くちを あけそうになって あわてて カギを くわえなおした。
すごい。
なに これ。
とびらの おくは きゅうでん そのものだった。
きれいな はしら きれいな ちょうこく。きゅうでんと いうより しんでん かも しれない。ひろい へやの いちばん おくには ごうかな さいだん。ぼくは そこまで およいでいって あっと こえを あげそうになった。
さいだんの うえに きんいろに ひかる ちいさな かんむり。
これだ!
これが リドワーンの かんむり なんだ!
ぼくは あたまを さげて せなかを かたむけると まるい かんむりを せビレに とおした。そのまま かんむりを のせて ぼくは ひろまへ およいでいった。
かいだんの うえでは おかしらの あけた たからばこが ぽっかり くちをあけたままに なっていた。
あたまで たからばこの ふたを おしもどす。カギを さして おもいっきり まわす。
カチリと ひくい おとがして それから おもたい じひびきが した。
ふりかえれば あの とびらが ゆっくり しまる ところだった。
ごうごう おとをたてて みるみる みずが ひいていく。
ぼくは ほっとして すいめんに むかって およいで いった。
◆◆◆
ぱしゃんと みなもから かおを だすと ボートから みを のりだすようにして オーガストが まっていた。
「モラ……お前、モラなのか?」
ぼくが こくんと うなずくと オーガストは ふるえる ゆびで ぼくの ほっぺたに そおっと ふれた。
「お前だったんだな。お前あの時のマンボウだったんだな……」
そうだよ オーグ。ぼく あのときから ずっと オーグが すきだった。
オーガストの みどりいろの めも うたうと よくとおる こえも やさしい ゆびさきも たたかうと かっこいい ところも ちょっと らんぼうな ところも みんな すきだった。オーガストのことを しる たびに もっと ずっと すきに なっていった。でも。
でも もう いっしょに いられないんだね。
ぼく もっと オーガストのこと すきに なりたかった。
もっと ずっと すきに なりたかった。
と おかしらが オーガストを みつめて しずかに たずねた。
「どうするの? オーグ」
「連れて行く」
そく へんじを した オーガストに おかしらは めを まるくした。
「連れて行くって……マンボウってどれだけデカくなるかわかってる? 3メートルは越すのよ?」
「知っている」
「重さは2トン」
「わかっている!」
けれど オーガストは はげしく くびをふって それから ぎゅうと ぼくを だきしめた。
「置いていけるか……っ!」
オーガスト ふるえてる。こまった。ぼく もう にんげんじゃないから オーガストに ぎゅうって できないんだ。
そのとき フッと せなかが かるくなった。なにかと おもって かおを むけたら おかしらが ぼくの せビレから かんむりを ひきぬいて いた。
「モラ! アンタ、これ……!」
うん おかしらに おみやげだよ。おかしら これで みんなの おねがいごと かなえてね。
そう おもって みあげていたのに おかしらは かんむりを じっと みつめてから ふいに くすりと ちいさく わらった。そうして それを そっと オーガストの あたまに かぶせた。
「ジャヌアリー!」
「わかってるわね、オーグ。願い事はひとつだけよ?」
そういって おかしらは ぱちりと かためを とじた。
オーガストが みんなの かおを みまわす。
ジュンが にっこりした。
ユーリが うなずいた。
マイクが おやゆびを たてた。
ナナイが ほほえんだ。
「早くしろ」
Jが ニヤリと わらって いった。
オーガストは ふるえる ひとみで ぼくに むきなおると ゆっくり くちびるを ひらいた。そうして ひとこと ひとこと たしかめるように つむぎだした。
「……モラが、」
オーガストの ゆびが ぼくの ほっぺたに ふれる。
「人間に、なるように」
いいおわった とたん ぼくの からだから しろい ひかりが あふれだした。
まぶしい。
まぶしい。
おもわず ぎゅうって めをとじたら からだに うでが まわされた。つよく つよく だきしめられて いきが とまりそうになる。めを とじてても わかる。この あったかい うでは オーグだ。この あったかい むねは オーグだ!
ぼくも ぎゅうって オーガストに だきつくと オーガストの うでは ぼくを もっと もっと ぎゅうってした。
そおっと めを ひらいてみる。
て。
ぼくの てだ。
みぎても ひだりても ある。
ぼく にんげんに なったんだ!
「オーグ?」
ささやいて かおを あげると オーガストの やさしい まなざしが まっていた。オーガストは ぼくの ほっぺたを りょうてで くるむと ふかく ふかく キスをした。
「おいおい、見せ付けるなよ!」
「イチャつくのは船に戻ってからだよ! ほら、とっととお宝を積み込む!」
「うるせぇてめぇら、見るな!」
わらって どなりながら オーガストが くろい うわぎを すっぱだかの ぼくに ふわりと きせた。
みんな わらってる。
いいの?
おねがいごと これで よかったの?
「おかしら おかしら ぼく」
と おかしらは ぼくの くちびるに ピタリ ひとさしゆびを あてがった。
「聞こえなかった? あたしは『宝を積み込め』って号令したよ?」
そうして にこっと わらいかけた。
ぼくは おおきく うなずいて それから げんきに へんじをした。
「アイアイ キャプテン!」
ノースフィールドごうに もどってから ぼくは あらためて みんなを みた。
マストの うえから ミルが おおきく てを ふった。
はだかの うえに オーグの コートを はおっただけの ぼくを みて ハッサンが あわてて ふくを もってきて くれた。
ミストが おおはしゃぎ しながら おたからを はこびあげた。
テルモが「おつかれさん」と いって ぼくの かたを ぽんと たたいた。
リリが まちかねたように ぼくの あたまに のっかった。
みんな ぼくの なかまたち。ぼくの だいすきな なかまたち!
しまに もどったら セントに おみやげを もっていこう。おかしらは そのまえに クレイに あいたがるかな。おじいさんにも はやく あいたい。はやく Jに あわせて あげたい。
ぼくらは むねに いっぱいの おもいを のせて ふねに ほを はった。かぜを はらんで しろい ほが ふくらむ。
ここが ぼくの いばしょ。
ここが ぼくらの かえるばしょ ここが ぼくらの たびだつ ばしょ。
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