第3話 とびらの むこう

そのひ ついに ぼくらは ひとつの しまかげを めにした。

ちいさな ちいさな くろい かげ。


「遂に来たわね……黒曜島」


おかしらが つぶやくと みんな むごんのまま うなずいた。かぜに かいぞくの はたが ひるがえる おとだけが みみに とどく。


「クロイ サンゴノ シマ! クロイ サンゴノ シマ!」


たかい ひざしの した リリの こえが とおく そらに ひびいた。




しまの まわりは まっくろな さんごしょうに かこまれていた。ふねで ちかづくことは できなくて ぼくらは 2そうの ボートを おろして それで しままで いくしか なかった。


「あたしの案内はここまで。気を付けてね、マンボウ」

「うん。タイ ありがとう。おつかれさま」


ぼくが てを ふると タイは ぴしゃんと げんきに はねて それから なごりおしそうに なんども なんども せんかいしながら あおい うみへと かえっていった。その すがたを みおくる ぼくのところに Jが つかと あゆみよった。


「これが黒曜島の地図だ。これによると宝の眠る洞窟への入り口は、この南の入り江になる」


そういって Jが さししめした ちずを ぼくと おかしらと ジュンが のぞきこんだ。ちずは ちょっと かわっていて ちめいや ほうがくの かわりに あちこちに なぞなぞが かかれていた。


「どうして こんなに なぞなぞだらけなの?」

「暗号だよ」


しんけんな めで ちずを みながら ジュンが こたえた。


「宝の位置を隠す為にそうしてあるんだよ。この『死を恐れぬ勇敢な愚か者のゆりかご』というのは『嘆きの海』のことだったんだ。それで、これから向かう洞窟は……」


なに なに なんて かいて あるの?


ぼくが ジュンの かおを のぞきこむと ジュンは ゆっくり かみしめるように よみあげた。


「『聖なる乙女は夜明けの扉の向こうに眠る』」



◆◆◆



ボートには 1せきに 8にんまで のれた。けれど おかしらの「帰りにお宝を乗せる為に」という しじがあって はんぶんの 4にんずつ のることになった。


1せきめの ボートには おかしらと オーガストと Jと ぼく 2せきめの ボートには ジュンと ユーリと マイクと ナナイが のりこんだ。


きらきら かがやく うみの そこに どすぐろく てをひろげる さんごしょうが ひどく ぶきみで ぼくらは しんちょうに ボートを こぎすすめた。ちかづいてみれば しまも まっくろい ごつごつした いわが つみかさなって できていて くさ いっぽん はえていなかった。


みたことのない くびのながい うみどりが ギャアギャア みみざわりなこえを あげている。のしかかるような くろい いわの あいだを くぐりぬけ ゆっくり ボートを すすめていく。


と やがて いわまに ひびわれのように うすく あいた あなぐらを みつけた。


「ここが洞窟の入り口ね」


おかしらは こくりと つばをのみこんで それから オールを にぎりしめた。


ボートは おばけの くちのなかに すいこまれるように しずかに どうくつへ すすんで いった。まっくらで せまい すいろを ゆらゆら ゆらゆら。しばらく すすんで くらやみにも すっかり めが なれたころ トンネルの でぐちが みえてきた。




「わぁ……!」


おもわず こえを あげたのは ぼくだけじゃ なかった。




どうくつないを おおいつくすように つみあげられた ざいほうの かずかず! 


きんぴかの コインや きらきらした ほうせきや けんや よろいや カップや ワンド! 



すいろを ぬけた さきは ぽっかりと ひらけた ひろまのように なっていた。てんじょうは とてもたかくて ながい しょうにゅうせきが たれさがっている。いわかべは おおきく くりぬかれ ところどころに ちょうこくまで ほどこされて まるで ふるい しんでんの よう。




ぽかんと くちを あけている ぼくに おかしらが がばっと だきついた。


「やったぁ! あたし達、とうとうやったのよ!」


さけぶと おかしらは ボートから ぴょんと とびだして うずたかく つみあげられた おたからに いきおいよく とびこんだ。


ザラザラと おとをたてて おかしらの したで きんかの やまが なだれを おこす。おかしらは まるで みずあそびでも するかのように きんかを りょうてで すくったり ゆびの あいだから こぼしたり こえをたてて はしゃいでいた。


「お頭、あれを!」


ユーリの こえに みんなの しせんが あつまった。



ユーリの ゆびさした さきには ほそく たかく つづく いわの かいだん。

その いちばんうえに すえられた ちいさな だいざ。

そして そのうえには くろびかりする ふるびた たからばこが ポツンと おかれていた。



ボートを きしに つけると ぼくらは たからばこへと つづく かいだんの まえに あつまった。


「この中に……リドワーンの冠があるのね」

「そうとは限りませんよ、お頭」


そういったのは ジュンだった。


「この地図には、こう書かれています。『聖なる乙女は夜明けの扉の向こうに眠る』」


とびら。


ぼくらは とびらを さがして たいまつを かかげて あちこちを みまわした。


と ユーリが いわかべに かけよった。


「ありました。扉です」


その ほうこくに みんなが いっせいに あつまる。たいまつに てらされた いわかべには おなじく いわで できた おおきな とびらが きざまれていて ぼくらを だまって みおろしていた。


りょうとびらには あらけずりな ちょうこくが ほどこされていて よくみれば おひさまの もように みえないことも ない。


「モラ、鍵を」


いわれて ぼくは あわてて くびから ペンダントを はずすと おかしらに てわたした。おかしらは くろい サンゴの カギを にぎりしめて ナナイの てらす たいまつを たよりに しんちょうに とびらを しらべだした。



「……無いじゃない」



おかしらの いう とおりだった。


とびらには どこにも カギの ささりそうな ところは なくて ただ つめたい しめった いわが たちふさがる だけだった。


「これ、ホントに開くの?」


おかしらの ことばに マイクが ゆびを ポキポキ ならしながら まえにでた。それから ちからを こめて いわとを おしてみた。びくともしない。


こんどは オーガストと ふたりがかりで おしてみた。やっぱり びくとも しない。


「駄目じゃない。やっぱり冠は、あの宝箱の中にあるのよ」


そういうと おかしらは いわの かいだんへと ひきかえした。ぼくらも その あとを おいかける。


ゆっくり ゆっくり いちだん いちだん たしかめるように おかしらが いしだんを のぼっていく。ぼくらは いきをつめて そのすがたを みつめていた。


ついに おかしらは だいざの まえに たどりついた。

いっかい いきをすって はいて。

それから くろい サンゴの カギを とりだすと たからばこに さしこんだ。


カチリ。


ちいさな おとが どうくつないに ひびき わたった。


おかしらは たからばこに てを かけると ゆっくりと それを あけた。ぼくも ドキドキしながら おかしらの てもとを じいっと みつめた。


と おかしらの うごきが とまった。

たからばこの ふたが バコンと おとをたてて ぜんかいする。


「……無い……」

「何?」


おかしらが みんなを ふりかえる。


「無いのよ! 空っぽなの!」


さけんだと どうじに じひびきが した。つづいて ゴウンと おなかに ひびく おとが ひびいて おどろいて かおを むければ さっきの とびらが あいている! しかも そこからは たきのように たいりょうの みずが ながれこんで きている!


「ッ!」

「みんなボートに戻って、早く!」


おかしらの ごうれいに みんな いっせいに ボートに かけよった。とびらから いきおいよく ながれこむ げきりゅうに あしを とられないよう いわから いわへ しがみつきながら ぼくらは ようやく ボートに のりこんだ。


ごうごうと どうくつないに みずが あふれつづける。

ボートは おおきく ゆれながら それでも なんとか ながれに たえた。


みずは どんどん どんどん ながれこんで たからの やまも かいだんの うえの だいざも みるみる うちに のみこんだ。




げきりゅうが ようやく やんだとき どうくつないには ボートが うかぶ わずかな くうかんしか のこされて いなかった。てんじょうちかい この すきまのほか どうくつないは すっかり かいすいに つつまれていた。


「……罠だったんだ。宝箱を開ければ海水が流れ込む。そういう仕組みだったんだ」


ジュンが ぎゅうっと こぶしを にぎりしめて ふるえるこえで ささやいた。


「どうする、水位は上がり続けてるぜ」


マイクが にがにがしげに つぶやいた。


みずの ながれは ゆるやかに なったものの ぼくらのボートを じわじわと おしあげつづけている。さっきまで あんなに たかいと おもっていた てんじょうが いまでは すぐ ての とどく ところに ある。


「どうしよう。どうやってここから脱出する?」


どうしようも なかった。

ボートが はいってきた すいろは いまは ずっと したの みずの なか。

そこまで もぐるのは にんげんには むりだ。


と こんな ときに オーガストが くっと わらった。


「オーグ?」

「あンのじじい……『冠を手にした者が願うのはただひとつ』、か。やっと意味がわかったぜ」

「え?」


ふりむいた おかしらに オーガストは ただ ひとこと こたえた。


「『ここから出してくれ』」

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