七章 嘆きの海

第1話 ゆうれいせんの うわさ

なんにちか ぽかぽか とっても いい おてんきが つづいた。かぜも ふいてて おおきく ほが はって ふねは ぐんぐん すすんで いった。


けれど かいずを かきしるしていた ジュンの ひょうじょうは ひを おうごとに くらく なっていった。


「何、問題でもあるの?」


おかしらが たずねると ジュンは しんみょうな かおつきで ちずを ひろげた。


「まだ推測しかできないんですけど、もしこのまま南東へ進路をとったとしたら、」


ジュンが ひとさしゆびで ちずを たどる。その ゆびさきを めで おいながら みんなは つぎの ことばを まった。


「『嘆きの海』を通ることになります」


ちずの うえに えがかれた おおきな カマをもった ガイコツの すがた。ミストが ぶるっと みを ふるわせる。


「うわ、ホントに!?」

「なんだミスト、びびってんのかぁ?」


マイクが ミストの おでこを ゆびで はじくと ミストは ふくれて マイクを みあげた。


「俺は海の男だぞ! 幽霊船なんか怖いもんか!」

「ゆうれいせん?」


ぼくが ききかえすと ミストは にまぁと わらって ぼくに つめよった。そうして わざと ひくいこえで ささやいた。


「海の伝説のひとつさ。ボロボロの帆、朽ちた船体、到底動きそうに無いその船が、音も無く進んでいくんだ……一体、誰がそんな船を操縦していると思う?」


ぼくは わかんなくて ぷるぷる くびを よこに ふった。と ミストは ひとさしゆびを ぼくの はなに おしあてて とつぜん おおきな こえをだした。


「骸骨さ! 既に死んだはずの亡者達が、生ける者を呪って『嘆きの海』を彷徨っているんだ! その船を見たものは、彼らと同じようにこの世とあの世の境をいつまでも漂うことになる……」


さいごを きえいるような こえで そう しめくくると ミストは「きひひ」と ちいさく わらった。リリまでもが「ノロワレタ フネ! ノロワレタ フネ!」と さけびだした。


ぼくは せなかが ぞくぞくして りょうてを ぎゅうって にぎりしめたまま ふりむくことも できなかった。すると ぼくの かたを だれかが ぽん と いきなり たたいた!


「ひゃっ!」


びっくりして はねあがったら あたまのうえから あきれたような こえが ふってきた。


「おいおい、本気にしてるのかよ」

「オーガスト……」


ぼくは はんべそで オーガストを みあげると オーガストの うわぎの はじっこを ぎゅっと にぎった。オーガストは ためいきまじりに かみを かきあげると ぼくの あたまを ぽんぽんと たたいた。


「おいミスト、あんまり脅かすなよ。コイツ、本気にしちまうだろ?」


いわれて ミストは かたをすくめて「へへへ」と わらった。とたんに みんなも つられたように わらいだす。


「けど、あの海域で行方不明になる船が多いのは事実なんだ。僕らも気を緩められないよ」


ジュンが ぴしりと そういうと みんなの かおから えがおが きえた。



◆◆◆



よる くらくなると ぼくの どきどきは もっと はやくなった。


つきあかりに てらされて しろく ひかる てすりや カンテラの ほそい あかりが ガイコツの うでに みえてきて ぼくは あたまから もうふを かぶった。


「リリ」


そっと よんでみたけど リリは いなかった。いつもは ぼくの ハンモックの そばの はりに とまっているのに こんやは どこかに いっちゃったみたい。


ぼくは ますます こわくなって とても ねむれそうに なかった。

どうしよう どうしよう。


そうだ!


ぼくは がばっと おきあがると もうふを ひっつかんで のりくみいんしつを とびだした。


ろうかが まっくらで のみこまれそうで ぎゅうって めをとじて はしったら かべに なんども ぶつかった。




しつむしつの ドアを ノックしたら すぐに オーガストの へんじが かえってきた。


「誰だ」

「ぼく」


ぼくは ほっとして そおっと ドアを あけた。よかった。オーガスト おきてた。


「どうした、モラ。こんな遅くに」


オーガストは こうかいにっしを つけてたみたいで ぶあつい ほんを まえに ペンを にぎっていた。ぼくは もうふを ひきずって オーガストの そばに いくと ちっちゃな こえで おねがいした。


「あの あの オーガスト。いっしょに ねても いい?」


オーガストが にぎっていた はねペンが パキリと おれた。だめかな。だめなのかな。


ぼくが くびを かしげると オーガストは うなだれて ながい ながい いきを はいた。そうして がばっと かおを あげると ながい まえがみを かきあげた。


「お前なぁ、ちったぁ気ィ使えよ! 俺が一体どんだけ我慢してると思ってんだ!?」


いきなり どなられて ぼくは びっくりして ぱちぱち まばたきした。


「がまん?」

「……この間は、お前に恐い思いさせちまったからな。しばらく寝るのはお預けにしようと思ってたんだが」

「いっしょに ねるの だめなの?」

「駄目だ」

「それじゃあ おかしらと いっしょに ねる」

「なんでそうなる!」


しょんぼりして へやを でようとした ぼくの くびねっこを オーガストが ぎゅっと つかまえた。


「だって ベッドがあるの オーグと おかしらと ハッサン だけだもん。オーガストが いっしょに ねてくれないなら おかしらか ハッサンに おねがいする」

「いつの間に脅しなんてワザ覚えたんだお前は! わかった、わかったから俺のベッドで寝ろ!」


いいの? いいの?


ぼくが ふりかえると オーガストは みじかく したうちした。


「そんな期待に満ちた目をするな。ほら、とっととベッド入れ」


ぼくは わくわくして ベッドに ころがりこむと もうふを ひっぱって ばさりと かぶった。オーガストも カンテラの あかりを しぼると ぼくの となりに よこになった。


ベッドは せまくて オーガストと ぼくは ぴったり からだが くっついた。

オーガスト あったかい。ぼくは うれしくなって ぎゅっと めを とじて オーガストの むねに ほっぺたを ぴったり つけた。


「ありがとう オーガスト。ぼく やっと ねむれそう」

「……寝かすと思うか?」


え?


ききかえそうとして かおを あげたら そのとたん キスされた。ふかく ふかく したを からめながら オーガストは ぼくの りょうかたを シーツに おしあてた。

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