六章 誕生日

第1話 オーグは だれのもの?

そらよりも あおい うみに まっしろな しぶき。

くだける なみの あいまに ひかる ぎんの うろこ。


「タイ タイ つかれたら やすんでねって おかしらが いってたよ」

「あたしは大丈夫! 任せてちょうだい」


そういって タイは ぴしゃんと げんきに しっぽで はねた。それを みて ミストが ちいさく「あ~あ」と いった。


「あんなに綺麗な鯛、絶対美味しいだろうになあ」


と ぼくの しせんに きがついて ミストは あわてて りょうてを ふった。


「あ、捕らない、捕らない! モラの友達だもんな、約束する。安心して!」


ぼくは うれしくなって ミストに ぎゅうって とびついて なんども「ありがとう」を いった。


ふいに だれかが ぼくの うでをつかんで むりやり ぼくらを ひきはがした。だれだろうと おもって ふりむいたら。


「オーガスト」

「だから、何度も言わせるな。そうやって誰彼構わず抱きつくのは禁止だと言ってるんだ」


ぼくは きょとんと して オーガストを みあげた。


「どうして だめなの? ぼく ミストが だいすきだから ぎゅうってしたい」

「ほら、どうしてかって聞いてるよ、オーグ。答えてやりなよ」


ミストが きひひ と わらって オーガストの わきばらを ひじで つついた。


「モラにははっきり言ってあげないと伝わらないよ?」


ナナイも ちょっと いじわるい えみを うかべて オーガストの かたを たたく。ぼくは なにを いわれるんだろうと おもって どきどきして オーガストの かおを みた。


かんぱんを よこぎろうと していた ジュンが あしを とめた。


デッキブラシを かたてに マイクまで やってきた。


マストの うえから ユーリと ミルが みを のりだす。


みんなに みつめられて オーガストは くしゃくしゃと まえがみを かきあげた。それから つまさきを にらんで するどく したうち した。


「……~わかったよ、言やいいんだろ、言やぁ! いいかモラ、お前は俺のモンだ! だから他のヤツに抱きついたりするな。わかったか!」


とたんに みんなから かんせいが あがった。それから くちぶえと たくさんの ヤジ。オーガストは まっかに なりながら はがみして ぐいっと ぼくを だきよせた。


「畜生てめぇら、これで気が晴れたか! とっとと持ち場に戻りやがれ!」


みんなは わらいながら かおを みあわせた。けど ぼくは よく わかんなくて おろおろと みんなと オーガストを こうごに みた。


「オーグ オーグ」

「なんだ」

「ぼくが オーガストのものなら オーガストは だれのものなの?」


ミストが ぶはっと ふきだした。

マイクが ひゅうっと くちぶえを ふいた。


「いいぞモラ、いい質問だ!」

「答えてやれよ、色男!」


オーガストは マイクを にらみつけてから ミストの あたまを ごつんと なぐった。ナナイが くすくす わらいながら ぼくに むかって こう いった。


「つまりね、モラ。オーグはモラに他の人にじゃれつくのを禁止する代わりに、自分もモラ以外の人を抱かないってさ。ね、オーグ?」


ぼくは ぱちぱちと まばたきすると オーガストを みあげた。オーガストは もいちど したうちして それから ぼくの かたをだく うでに ちからを こめた。


あったかい オーガストの むねに ほっぺたを くっつけながら ぼくは この どきどきが オーガストのおとなのか じぶんのおとなのか どっちなんだろうと かんがえていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る