第13話 現実は非情なり 2
「グルアァァァ!!」
「ずいぶん乱暴ね。」
学校の屋上にて狼の噛みつきや爪による攻撃をひらりとかわしながら若菜はそう呟いた。
「あなたに構っている時間はないの。さっさと成仏してもらうわよ。」
そう言いながら若菜は懐から紙の式神を複数枚取り出し爪による攻撃をかわした刹那、狼を踏み台にして大きくジャンプし狼に式神を投げ飛ばす。
投げ飛ばされた式神は狼に命中し大爆発を起こした。
「津守流術式其ノ壱、爆炎牢。あなたには少し火力が強すぎたかしら?」
きれいに着地した若菜は髪をなびかせ、すでに即死した狼にそう告げる。
「うわぁぁぁ!」
「きゃあああ!」
校庭にいた残りの狼が校舎の壁を破壊し、避難中の生徒たちに襲いかかろうとする。
「全く、落ち着きのない連中ね。」
そう言って若菜は屋上から飛び降りると、着地する寸前に式神を使って風を起こしゆっくりと着地する。
そのまま校舎内に侵入した狼のもとまで全力疾走し再び式神の力を発動。風の刃によって一瞬で狼はバラバラの肉片と化した。
「二体目終わり。早く逃げなさい。でないと今度こそ…死ぬわよ。」
若菜が周囲の生徒たちにそう告げると生徒たちは一目散に逃げ出すのだった。
「残りは2体、さっさと終わらせないと。」
そう言って若菜が狼の攻撃で瓦礫だらけとなったその場を去ろうとしたときだった。
「待って!お願い!」
背後から呼び止める声が聞こえる。
若菜は周囲を見渡すが周りには崩れ落ちた校舎の瓦礫ばかりである。
「気のせいかしら?」
そう言って若菜は再び立ち去ろうとする。
「お願い!助けて!私はここよ!」
再び声が聞こえてくる。若菜は声の出所をたどる。すると声は瓦礫の中から聞こえてくることが分かった。
どうやら声の主は瓦礫の下敷きにされているようだ。狼の起こした校舎の崩落に巻き込まれたのだろう。
「この瓦礫の山から探すのは面倒ね。」
若菜は式神を手に持ち、ぶつぶつと何かを念じる。
津守流術式其ノ参、青田風あおたかぜ。大気の流れを読みとり対象物の居場所を感知することができる津守家固有の索敵術式である。
「…見つけた。」
そう言って若菜は瓦礫の山に閉じ込められていた女子生徒を助け出す。
「た、助かった…あ。」
助けられた女子生徒は若菜の陰口を言っていた3人組の一人だった。
「あら、あなただったの。早く行きなさい。ここにいたらまた瓦礫の下敷きになるわよ。」
「お、おう。じゃあな。それと改めてありがとうな。」
「はいはい、ッ!?危ない!」
「え?」
女子生徒の逃げた先には狼が待ち構え、鋭利な爪で女子生徒を無慈悲に引き裂こうとしていた。
「あー、眠い。さっさと終わんねーかな。」
校庭に避難した和彦は倒壊した校舎を見ながらポケットに手を入れながら気だるけにそう呟く。
周囲には俺と同じように避難してきた生徒たちやつらが落ち着きなくざわついている。一・部・の・人・間・を除けばの話だがまぁ今はどうでもいい。
若菜あいつに問い詰められたときはマジで焦ったがどうやら天は俺に味方しているようだ。今日はついている。
若菜と瑠衣は今日確実に死ぬ。狼との戦いでな。そうすれば俺の秘密を知るものは誰一人とて存在しなくなる。
なぜそんなことが分かるのかって?予知で見たからだ。若菜が狼の胃袋に収まり、瑠衣が爆弾で木っ端微塵になる予知をな。
死ぬと分かっていて見殺しにするのか薄情者!なんて言わないでくれよ。今回はテロリストの時とは違い、若菜たちが関わっている以上、正体の隠しようがない。世の中には仕方のないことだってあるのだ。
(芳樹には悪いが若菜のことは諦めてもらうとするか。女との出会いはこれから先もない訳じゃない。もっといい相手にも巡り会えるだろうよ。そうだろ?芳樹。…っていない。あいつどこ行った?)
和彦はキョロキョロと辺りを見渡す。しかし、芳樹の姿はどこにもなかったのだった。
「ッ!?危ない!」
「え?」
場面は変わり、女子生徒は狼によって引き裂かれ五臓六腑を撒き散らした…かに思えた。
狼が鋭利な爪を振り下ろす刹那、若菜は式神によって身体能力を限界まで引き上げ今にも殺されそうになっている女子生徒を抱き抱え、間一髪のところで救ったのだ。
「ぐっ!」
「お、おいその傷!」
しかし、急激な身体強化による反動で若菜の体は全身の筋肉は断裂、所々からは血が出ており、もはや立っているのが奇跡なくらいである。
「ハァ、ハァ…逃げなさい。」
「で、でも!…」
「早く!せっかく助けた命を無駄にしないで!それとも私を犬死させるつもりなの?」
「ッ!…分かったよ。」
若菜にそう告げると女子生徒は走ってその場を去る。狼はそれを追おうとするがその先に若菜が立ちふさがった。
「あなたの相手は私よ!」
そう言って若菜は狼に式神を放とうとするが背後からもう一匹の狼の尻尾によるなぎはらいを受け、そのまま校舎の壁に叩きつけられる。
「ガハッ!?」
(もう一匹!?まずい!)
壁際に追い詰められ窮地の若菜に対し二匹の狼は同時に襲いかかる。その時だった。
「津守さん!」
横から誰かが割って入り、若菜をタックルで押し飛ばし狼の攻撃から守る。ヒロインのピンチに駆けつけた王子様の正体は和彦…ではなくその友人の鈴鹿芳樹だった。
「芳樹くん!?何でこんなところに!逃げろって行ったじゃない!」
「忠告を無視してごめん!心配でいてもたってもいられなくなったんだ。」
「あなた馬鹿じゃないの!?下手したら死んでいたかも知れないのよ!」
「でもこうして生きているし何より津守さんこそあのままじゃ死んでいたじゃないか。」
「う…。」
三流ラブコメみたいな展開を繰り広げる芳樹と若菜。そんな二人をよそに狼たちは突然乱入してきた命知らずで場違いな愛に燃える男を警戒しながら再び攻撃の体勢をとる。
(この身体じゃ使える術式はあと1回ってところね。せめて芳樹くんだけは逃がさないと…たとえこの命を犠牲にしてでも。無様なものね。平常心を欠いて限界まで身体強化を使用した結果がこれなんだから。)
そんな考えを心に抱き、若菜は式神を構え狼たちと対峙する。
(チャンスは1度きり。これにすべてを懸ける!)
「津守流術式其ノ壱、爆炎牢!」
若菜は天井にありったけの式神を張り付けそう唱えた。
直後、式神は爆発し、そのショックで天井は崩落。崩落した瓦礫はそのまま狼たちに降り注ぐ。
さらに瓦礫と狼自身の重圧に耐えられなくなった床が崩れ落ち狼たちは1階の床に叩きつけられ瓦礫で生き埋めにされるのだった。
(3階から1階に転落する際の位置エネルギーに加え瓦礫による重圧、終わったわね。)
「た、倒したの?」
「ええ、なんとかね。あー、疲れた。明日は全身筋肉痛確定だわ。」
すべてを終えた若菜は気を緩め、床に座り込む。
「肩貸すよ。」
「あら、気が利くわね。じゃあお願いするわ。」
芳樹は若菜を肩に担ぎ、立ち上がる。そして校庭に向かって若菜の負担にならないペースでゆっくり歩きだすのだった。
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