#035 白い魔人

「殿下、どうかお考え直しを」

「えぇい、黙れミラルド! あれほど簡単に"賊"の侵入を許す王城になど住んでいられるか!!」


 石造りの地下道を、王が僅かな側近を連れて進んでいく。


「せ、せめて近衛だけでも。もし、殿下の御身に何かあれば、この国は……」

「馬鹿者! その、近衛や元老院の老いぼれが信用できんから、こうしてお前たちを連れているのだ!!」


 実際のところ、王の判断は間違っていない。対魔防具や魔力吸収結界など、魔人に対抗できる装備はいくつも存在する。しかし、相手がソレを無視して突き進んできた場合の防衛策が無い。最悪の場合、王城を物理的に破壊され、生き埋めになる可能性も存在する。


 よって、王は身を隠し、そこから書簡を通じ国を動かす判断に至った。それも、近衛や元老院議員に居場所を告げずにだ。


「そ、それは……」

「近衛が仕えるのは、あくまで"王"だ。私が王の座を引きずり降ろされれば、ヤツラは当然のように私を裏切る」

「それは、そうかもしれませんが、最低限の警護は必要かと」

「むろん、そのつもりだが……城で手配するのは論外だ。確実に元老院の息がかかった者が用立てられる。そんな事をすれば、私は……」


 王は、元老院の手口をよく理解していた。何を隠そう、王自身がソレを使い"王の座"を奪ったからだ。


 現国王のグリアスは、自身が"王"になるため、二重の暗殺計画を企てた。

①、亜人協和政策に反対する元老院議員の1人をそそのかし、国王の暗殺計画を計画させる。


②、その計画を最終段階で裏切り、王を助ける。


③、避難の混乱に乗じ、警護を息のかかった者に入れ替える。


④、避難先で王を拷問して必要な情報を聞き出し、元老院会議の"最終決議権"を譲る委任状を書かせる。


⑤、そそのかした元老院議員を処刑し、王も政策変換と共に"隠居"の道を選んだ形で事件の幕を下ろす。


 あとは、優先継承権を持つ王の子供を暗殺したのち、頃合いを見計らって前国王を病死させれば、内外含めて正式にグリアスに王位が渡る。グリアスの家系は、大昔に娘を嫁がせた事があるだけ、つまり"親戚"止まりであるが、そこは家系図を書き換えて対応した。


「分かりました。それでは身分を偽り、現地で警護の者を用立てましょう」

「あぁ、その辺りの調整は任せたぞ。今は、身を潜めて嵐が過ぎ去るのを待つ時だ」


 僅かに漏れる日の光が、地下道の終わりを告げる。王が持っていた魔道具をかざすと、目の前の岩がひとりでに退き、今度は石を積み上げて作られた壁が現れる。


「こ、ここは……」

「王都郊外の枯れ井戸の中だ。い、今から、この壁を登る。ミラルドよ、分かっておるな?」

「え? あ、はい!」


 井戸の岩壁は、人がよじ登れるように作為的に荒く石が積まれている。しかし、それでも壁が壁である事実は揺ぎ無く、それ以上にグリアスの体力は心許なかった。


「おい、もっと力を入れろ! 腕が、腕がモゲそうだ」

「殿下、もう一息です。今一度、今一度力を!」


 上から引き上げてくれる者も居なければ、その為の縄も用意していない。仕方なく、総出で王を支えながら壁を登る事となった。


「くそっ! なぜ私がこんな目に。し、しぬぅ、いきが……」

「いや、これくらいで死ぬなんて有り得ないから。ほら、手を」

「あ、あぁ。やっと、やっと外に……」

「はい、お疲れ様」


 何とか壁を登りきり、井戸から出た王が……。


「……………………」


 無言で井戸の中に戻ろうとする。


「はい、戻ろうとしないの。観念する!」

「な、なぜ貴様がココにおるのだ!?」


 井戸の外で王を待っていたのは白い少女……シロナであった。


「なんでも何も、隠し通路なら知ってるって言ったでしょ?」

「へ? ……あ」


 そう、確かにシロナは言っていた。そもそも、避難経験があるルリエスに事情を聞いているなら、この先にある隠れ家の事や、更に用意された諸々を全て把握していても何ら不思議はない。


「正直、王都から逃げ出してくれるかは"賭け"だったけどね。いや~、人徳の大切さが、よくわかるね」

「ぐっ。者ども、何をしている! この亜人を殺せ!!」

「「……………………」」

「なっ、何をしている!? ミラルド、血迷ったか!??」


 貴族のミラルドが、王の命を無視してシロナに跪く。


「殿下、今は抵抗しても寿命を縮めるだけにございます。彼の魔人は、無抵抗の者の命を奪いません。どうか、今は耐えてください」

「なっ!」

「王よ、我々もお供しますので、この場はどうか……」

「なぁ!!? お前たちは! そうか、やはり貴様らだったか!!」


 そこに現れたのはガーランド将軍。そして彼は、ミラルドと縁のある貴族でもあった。


「説明しても理解して貰えないでしょうが……この"結末"を選んだのは、あくまで王自身にございます」

「な、なにを……」

「我々は、共に職務を全うする道を選びました。その証拠にミラルドは、王、アナタを一度も、この場に誘導していないはずです」

「そ、それは……」


 そう、ミラルドはこの隠し通路の存在を知らない。ガーランドも『王が人知れず王都を離れる』選択を選んだ事を知らなかった。全てはシロナが予測した"未来"。そこに立ち会ったに過ぎないのだ。


「さぁ! これから忙しくなるよ!!」

「はぁ?」


 手を叩き、背を向けるシロナ。


「なに呆けてるの? もう王を取ったんだから、ゲームは私の"勝ち"でしょ??」

「な、なんの話だ」

「今日から私が、人族の国の"影の支配者"になったの! 皆には一杯働いてもらうから、覚悟してよね~」

「だ、だから何の話だ! おいミラルド! 状況を説明しろ!!」

「簡単なことです。国は、王を人質に取られ、傀儡政権になった。誇りを胸に自決するか……さもなくば良い国を造るために働く。私も、ガーランド様も、その二択を迫られ、後者を選んだ。そう言う事です」





「……。……そう言う事だから、私はこの国を良くしたいと思っているの」

「そうか、ルリエス様のご友人だったとは」

「王が持つ"継承の指輪"が認証を受けていない理由にも説明がついたな」

「そう、だから私が王を生捕りに出来たら……王のためではなく、国のため、国民のために働いてほしいの」

「それは、やぶさかでないが……」

「もし、私のやり方が"国のためにならない"と思うのなら、その時は決闘でも暗殺でも、好きなだけ受けてあげるわ」





「ふにゃ~。シロニャ、日陰に入ったから移動するのにゃ」

「いや、ハンモックは移動できないから、ニャアちゃんが移動すれば?」


 苔むした森の奥で、少女が猫と共に昼寝を満喫する。


「シロニャはニャアのベッドにゃ。程よくあったかくて、程よくプニプニで……」

「プニプニ言うなし」

「シロナ様! 探しましたよ、またこんなところで……」

「それより、兼ねてから捜索していた盗賊団のアジトが掴めました。至急……。……」


 少女と猫の至福のひと時は、駆け付けた少女たちによって終わりを迎える。


「はぁ~、国の貧しさは、心の貧しさか……」

「はい?」

「何でもない。討伐は私が何とかするから、後でそこの領主邸に将軍を送って。原因はモトから絶たないとね」

「はい! 直ちに手配します!!」




 白い少女が、今日も忙しなく身支度をすすめる。平和を愛し、平穏を望む彼女だが……まだ、怠惰な生活は許されないようだ。


 『ゴブリンに産まれたけど、人類がゴミなのでリセットしようと思います。』~完~

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ゴブリンに産まれたけど、人類がゴミなのでリセットしようと思います 行記(yuki) @ashe2083

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