#027 赤き王道③

「悪いが、そこを通してもらうぞ」

「へへっ、相変わらず人族は部隊むれでないと戦えないんだな」

「生憎、獣人キミたちのように体格に恵まれていないのでね」


 グロー砦の外周付近。周囲に展開していた獣人と、人族の部隊が相対する。


「お前たち、もしかしなくても狙いはボスか? 止めとけ止めとけ、雑魚が束になったところで敵う相手じゃないぞ」

「それでも王国の兵士には……国の為、民の為、引けない戦いがあるのだよ」

「ガーランド、キミは先に行ってくれ! ココは私の部隊が抑える!!」


 強がる獣人だが、実のところ勝機は無い。もちろん、1対1でなら充分に勝機はあるのだが……それが出来ないのが獣人であり、武人だ。それを理解しているが故に、兵士たちは部隊を分け、先を急ぐ。


「へっ! 別に、止めやしないよ。行きたきゃいけ」

「「なっ!?」」

「ここはボスの戦場だ。俺はただ見物に来ただけ。神聖な戦いを邪魔するつもりは無い」


 あっさり道を明け渡す獣人。何も彼は、ボスの敗北を望んでいる訳ではない。武人であるが故に、ボスの『一人で戦う』と言う意思を汲み、援軍であっても素通しするのだ。


「そうか、では通らせてもらおう」


 物々しい空気の中、兵士が討伐対象である獣人の横を素通りする。





「アルザード、お前たちの部隊は(城壁の)上から行ってくれ。こっちは下から行く」

「どう見ても下から行ったように見えるが……無理はするなよ」

「フッ、出来る状況なら、もちろんそうするさ」


 夥しい血が徐々に乾き、赤黒く染められたグロー・一ノ門。その場に、2人の将軍と、その直属の部隊が到着した。


「者共、周囲を警戒しつつ微速前進! まずは状況の確認に務めよ!」

「「応ぉぉ!!」」

「コチラは馬を降り、上から行く! 工兵! すぐに縄梯子を架けろ!!」

「はっ! 直ちに!」


 静まり返る戦場に、兵士たちが不安を覚える。しかし、それを語ることは許されない。


「工兵! 上の状況はどうだ!?」

「はっ! 特に争った形跡はありませんが、弓兵や工兵は全員死んでいます!!」

「やはりそうか……。そのまま、作業を進めろ!」

「はっ!」


 城壁は、人の侵入を防ぐためにある。しかし、完全に侵入出来ないような作りにはなっていない。もちろん、費用や技術的な問題もあるが……幾つかの非常経路を作っておかないと、今回のような状況や、敵陣に偵察部隊を送るなどの行動がとれなくなってしまうからだ。


「魔法兵も……全滅か」

「そのようですね」

「おい、お前たち、その辺の死体から、使えそうな魔道具を剥ぎ取っておけ! ヤツに半端な魔法防御は通じない。少しでも、良い物に交換しておけ」

「「は、はい!!」」


 精鋭であるはずの兵士たちが、品格を捨てて死体を漁る。彼らも相手が規格"内"の強敵なら、このような真似はしない。しかし、彼らの実力をもってしても……この赤い道の先に『生きて帰れる保証』を見出すのは困難を極めた。





「報告します! 対象が間もなく三ノ門に到着します!!」

「フフッ、やっと来たか。とは言え、まだ油断は出来ん。間違って常駐兵に手柄を盗られるなよ? わざわざこんな田舎まで出向いた意味が無くなってしまう。生かさず殺さず。もし、常駐兵が有利となるのなら……その時は、分かっているな?」

「ははっ! 同行させている魔導士には……その様な場合、常駐兵を皆殺しにせよ、と命じてあります」


 豪華なローブを纏った一人の男が、グロー砦の屋上で杯を傾ける。砦は現在、強力な亜人に侵攻を受けている最中なのだが……彼にとってその事実は、良き酒の肴となっている。


「ハハッ! そうだ、それでいい」

「全ては、グランドロフ様の"意"のままに!」


 亜人の襲撃を受け、急きょ立てられた作戦は、

①、下級兵による断続的な攻撃で時間を稼ぎつつ、亜人を二ノ門まで引き込む。


②、二ノ門からは正規兵も交え、本格的な攻勢で亜人の魔力を削る。


③、それと同時に他の将軍が指揮する別動隊が相手の後方に回り込み、挟撃の形に持ち込む。


④、三ノ門の"手前"で、魔導士部隊と別動隊が協力し、亜人を仕留める。

 流れとなっていた。


 しかし男は他の将軍が砦を発った後、即座に作戦を変更した。その内容は『三ノ門まで亜人を引き込み、別動隊が到着する前に決着をつける』と言うもの。また、別動隊は亜人の仲間である獣人によって足止めされる想定であった。


「そんな事より! 問題は2人(の部隊)が到着する前に亜人を仕留めきれるかだ! 腐っても歴戦の英雄、下手な獣人に足止めは望めんぞ!?」

「そ、その、残念ながら城壁内の通路が亜人に制圧されてしまい、状況が把握できません。間違いなく、展開している獣人たちと戦闘になっているはず、なのですが……」

「まったく、防御ばかりで効率の悪い砦だ。早く王都に戻るためにも、亜人は早々に殺せ! そうすれば……ふふ、ハハハハハァ!」

「……………………」


 男が盛大に笑い声をあげる。彼の脳内は、すでに亜人の首を討ち取り、そこからもたらされる賞賛と地位向上の妄想で満たされていた。





「進攻が予想よりも早いようですね」

「そんな! 魔法対策が機能していないのか!?」

「いや、戦闘痕を見るかぎり、機能はしている。しかし、相手の学習能力がそれを凌駕した。それだけの事だ」


 部隊が周囲の状況を確認しながら、壁に囲まれた通路を進む。


「しかし、本当に静かですね……」

「まさか、手遅れって事は……無いですよね?」

「その可能性は限りなく低いが、"無い"とは言い切れないな」

「「…………」」


 部隊に緊張が走る。しかし、それでも精鋭部隊である彼らが、軽はずみに先を急ぐことはない。


 とは言え、砦に一度入ってしまうと現状を知る手段が大きく削られるのも事実。せめて、何かしらの戦闘音が聞こえてくれれば相手の位置を特定できるのだが……ここに来て、砦内は異様な静けさに包まれている。


「まぁ、可能性として高いのは……引き込んで倒す作戦に(勝手に)変更したと言ったところか」

「それは……杞憂である事を望むばかりです」




 部隊が赤い道を進んでいく。予定では二ノ門から三ノ門にかけての道のりで、既存の兵士、そこに加えて魔導士部隊と2人が率いる部隊が共闘する手はずになっていた。


「ははっ、木製の門では、彼の魔人には対抗できんようだな」

「その様ですね。しかし、戦闘痕はココで途切れているようです」


 部隊が二ノ門に差し掛かると、そこには無残に破壊された城門の残骸が散乱していた。当然、そこで対峙したであろう兵士の死体も残骸に紛れているが……そこから先、三ノ門へ向かう道のりにも描かれているはずであった地獄絵図が、突然途切れている。


「予定では、この場で最初の"決死攻撃"を仕掛ける作戦だったはずなのですが……爆発痕も見られませんね」

「亜人差別をするのは勝手だが、相手は紛れもなく我々と同等か、それ以上の知能を持っている。ゴブリンと馬鹿にしているから、こうなるのだ」

「…………」


 絶対的な破壊力を持つ奇襲作戦も、相手に看破されれば意味はない。二ノ門まで出し渋っていた決死攻撃だが、実際には度重なる獣人の襲撃に業を煮やした他の将軍が、切り札を早々に使ってしまったのだ。故に、相手が対策を講じてくるのは"当然"と言えよう。


「さて、それでは我々も……」

「?」

「壁を登るとするか」


 一同の顔色が一層暗くなる。相手が城壁を登ったとすると、最後の門は"開いていない"事になる。そうなった場合、三ノ門周辺に通常装備で登れる場所は存在しない。


「「!!?」」


 部隊が壁に手をかけんとしたその時、突然の轟音が戦場に轟く。


「三ノ門だ! 急ぐぞ!!」

「くっ! これだから魔術協会のヤツラは……」

「おい、ガーランド! 状況はどうなっている!?」

「アルザード! 良いところに来てくれた!!」


 友軍の独断専行により、三ノ門が早々に突破されてしまう。これから壁を登り、三ノ門へ向かい、更には主郭での移動。この遅れが何処まで戦況に響くかは未知数だが……それでも2人に『善処する』意外の選択肢は存在しない。




 こうして、グロー砦での攻防は最終局面を迎える。

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