#025 赤き王道①

「来たぞ! 一斉掃射! ヤツを串刺しにしろ!!」

「「応ォォオ!!」」


 矢が雨のように降りそそぐ。しかし、その尽くが彼女を避け……地面に突き刺さる矢が彼女の行く道を彩る。


「魔法部隊、構え! 射程に入り次第、各自照射せよ!!」

「「応ゥ!!」」


 光の矢が、雨の様に降りそそぐ。しかし、その尽くが彼女にあたる前に弾け……散りゆく七色の光が彼女に花を捧げる。


「傭兵部隊! 命に代えて彼の首を持ち帰れ! 突撃!!」

「「おぉぉぉぉおお!!」」


 人の波が、狂気に満ちた表情で押し寄せる。しかし、その尽くが彼女に肉薄する間もなく砕け……彼女の行く道を艶やかな赤に染め上げる。





「ヤツはいったい何なんだ!? 遠距離攻撃は物理・魔法を問わず届かない! 近距離戦を仕掛けても、並みの装備では近づく前にコマ切れだ!!?」

「報告にあった通り、魔法防御を固めないと手も足も出ないようですね」

「あんな報告が信じられるか!? こんな馬鹿げた強さのゴブリン、存在していい訳が無いだろう!!」

「いや、実際に現れてしまったので、リアスが落ちたのでは?」

「クッソ!!」


 グロー砦の城壁の上、周囲を見渡せる司令塔で前線指揮を任された指揮官が……相手の強さと、己の判断の甘さを呪う。


「ふん! まぁよい。引き続き傭兵部隊や徴兵を逐次投入しろ! ヤツの魔力を消耗させるのだ!!」

「ハッ! 了解しました!!」


 しかし、第一陣で決着がつかない事は折り込み済み。人族最大の武器である"数"を活かし、死んでも問題の無い兵を突撃させ、相手の魔力を消耗させる事に専念する。





「まいったな。あの魔人、獣人を周囲に展開して、単騎で砦に攻め込んでくるとは……。これでは、奇襲は不可能だ」

「なるほど、獣人に好かれるわけだ。それでいて、精霊種特有の高い魔力操作能力。現状では、打つ手無しだな」


 グロー砦を取り囲む岩場に潜ぬのは、砦の様子を確認する2人の将軍と、その配下部隊。


「あの、愚を承知でお聞きしても宜しいでしょうか……」

「戦場で悠長な言い回しは不要だ。聞きたい事があれば早めに済ませておけ」

「ハッ! それでは……あの魔人の攻撃が魔力に依存しているのなら、下級兵を突撃させ続ければ、魔力は枯渇するのでは無いでしょうか?」

「いい質問だ。確かに、我々人族の最大の武器は"数"であり、消耗戦で幾度となく強敵を討ち滅ぼしてきた。しかし、数の差を活かすには、いくつか条件が……。……?」


 相手はゼンマイで動く玩具ではない。力を消耗したなら『帰って補給すれば済む』話であり、それを止める手段が無ければ、作戦は成立しない。水滴でも継続すれば確かに岩を穿てる。しかしそれは、相手に回復や反撃が無い事が前提であり、それを阻止できなければ、水瓶の水や水瓶自体が先に悲鳴を上げてしまう。


「それにあの魔人……多分、魔力を殆ど放出していない」

「はい?」

「あぁ、やはりそう見るべきだろう」

「え? どういう事ですか??」

「簡単な話だ。彼の魔人は……。 ……?」


 魔力操作は大きく分けて、放出系と循環系の2種類に分かれる。放出系は、その名の通り魔力を放出する形で効力をあらわす。よって射程が長い反面、魔力消費が激しくなる欠点がある。対して循環系は、爆発力こそ無いものの、魔力を循環させるので魔力消費を最小限に抑えられる。


「つまりあの魔人は、放出した魔力を、即座に自分の体に引き戻している訳ですか!?」

「より正確に言えば、出すのも戻すのも、ある程度自由に選べるって所だろうな」

「そうであろうな。見たところ、射程に幾つかパターンがある。それはつまり、状況に合わせて調整できると言う事だ」

「そ、そんな……」

「それだけなら、まだいい。問題なのは、単騎突撃が計算の上に成り立っている点だ」

「まったくだ。我々がまず数で攻めて"消耗"を狙ってくることを理解している。故に、彼の魔人は射程を最小限に留め、最大効率でコチラの戦力を消耗させる作戦に出ている。正面から堂々と攻め入ったのは"慢心"ではなく……あえて自身が"的"になる事で、我々の消耗を誘っているのだ」


 歴戦の勇士が、相手を冷静に分析する。


「そ、それは不味いのでは!? すぐに、砦の指揮官に伝令を!!」

「まぁまて。今のはあくまで、主観に基づく仮説だ。事実である保証はどこにもない」

「それに、同じものは現場に居る指揮官も見ている。その場合、優先されるべきは現場の判断だ」

「し、しかし!?」


 2人は、わざわざ進言しても無駄な事を理解している。現状では、相手の能力を正確に証明する手段は無く……それを証明するには、人命をもって検証していく他ない。


「さて、そろそろ魔法部隊の第一陣が投入される。お前たちもよく見ておけ、明日は我が身だぞ」

「はい!!」


 視線の先で、大勢の同胞が死んでいく。しかし彼らは、その状況をさほど悲観する事はない。人族かれらにとってこの戦法は常作であり、死んでいるのはあくまで"身分の低い者"であるためだ。傭兵は、有償の志願兵ではあるが、その内容は温情(報酬)目当ての罪人やスラムの住人であり、徴兵は、平民の中でもより立場の低い者(替えのきく職種)の集まりで、そこには無駄な食い扶持くいぶちを減らす間引きの意味があった。





「魔法部隊! 対抗魔法を崩すな! 前衛は効果範囲を絶対に出るな! 出たら死ぬぞ!!」

「「応ッ!!」」


 グロー砦"一ノ門"。壁に囲まれたウネる道。そこには20程の軍人と……そんな彼らに冷めた眼差しを向ける少女の姿があった。


 グロー砦は、3つの門とそれを繋ぐ城壁、そして砦本体で構成されている。一ノ門は、グローを通過するモノを管理するための『壁に囲まれた道』で、有事の際は敵勢力を狭い通路に纏め、正面や上から攻める為の施設となる。


「なるほど……魔法のバリアですか。興味深いですが、なんだか効率が悪そうですね」


 赤い風が吹き抜け、前衛の兵士がバタバタと倒れる。


「対抗魔法が薄いぞ! 何をやっている!!?」

「既定の出力で継続しています!」

「それじゃ足りないってんだよ!」

「それでは継続するのに……」

「それで死んだら意味ねぇだろ!!」

「クッ! 長くは、持ちませんからね!!」

「(えっと、そろそろいいかな?)それじゃ、次、行きます!!」

「「!!?」」


 少女は振りかぶり、道中で拾った何の変哲もない石を投げつける。するとその石は、光の障壁を難なくすり抜け、魔法使いの頭を粉砕する。


「ヒィィ!?」

「物理障壁だ! 前衛は投擲にも注意しろ!!」

「クソッ! 高価な対魔法装備で石はじきか!?」

「なるほどね。色々できるけど、同時にってのは難しいんだ。じゃあ、これはどうかな?」

「「??」」


 続いて少女は、周囲に散らばる兵士"だった"ものを、次々と天高く投げる。その肉塊はやがて、兵士たちの頭上で……制止し、赤い球状の幕が浮かび上がる。


「マズい!? 障壁魔法がキレます!!」

「くそっ! 総員、回避!!」

「なるほどね。防御魔法って、継続的な力を止めるのが苦手なんだ。それに、力を集中させると反対側が薄くなる。あとは……」


 少女が冷静に、魔法の特性を分析していく。


「すぐに魔法を再展開しろ! 陣形を維持するんだ!!」

「すいません、もう、魔力が……」

「なっ!?」

「ダメだ、こんなの勝てるわけない。お終いだ……」

「何を諦めている! 早く構えろ!!」

「アナタたちは、"自決"攻撃はしないのですか?」

「「!?」」

「覚悟がない? いえ、数に限りがあると言ったところでしょうか……」

「「!!?」」


 兵士は答えない。しかしその答えは、それぞれの顔にあった。


「さて、それじゃあ時間も惜しいですし、次に行きますか」

「「……………………」」




 少女が、赤く染まった石畳の道を行く。その歩みを止めるモノはおらず……少女はやがて、巨大な木製の門を粉砕し、砦へ向かう道に、歩みを進めた。

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