#022 人族の火③

「そこの馬車、悪いが積み荷と……命を置いていってもらうぜ!!」

「うわ~、ベタな野盗ですね」


 またしても馬車が野盗に襲われる。しかし、それまでと違うのは『獣人が居ても襲ってくる』点であろう。基本的な身体能力を比較すると『人族の成人=子供の獣人』程度となる。それが成人した上位の獣人が相手となれば『武装したベテラン冒険者パーティー』でも対抗できるかどうか。当然、野盗風情では『確実に割に合わない相手』と言えるだろう。


「お! 待ってました! ノア! 荷馬車は任せたぞ!!」

「はぁ~ぃ」


 しかし、それでも襲ってくると言う事は、裏で援助をしている組織があるとしか言いようがない。





「……! ……!!」

「黙れ売国奴! 獣人に媚を売って恥ずかしくないのか!?」

「目先の利益のために、平気で国を売る。なんと浅ましい」


 普段は穏やかな時が流れる農村で、村民同士が口論を続ける。


「ワシらは、国に許可された範囲で取引をしているだけじゃ」

「お前たちが獣人と取引を拒絶するのは勝手だが、俺たちが誰と取引しようと、俺たちの勝手だろ!?」

「売国奴とか言っているけど、結局俺たちが儲けているのが気に入らないだけだろ?」

「あ~、嫌だね~、ちっぽけなプライドに固執しているヤツは。そう言うの、もう時代遅れなんだよ」


 村では『獣人と取引をして懐を潤わせる者』(共和派)と『獣人との取引を拒んで今まで通りの貧しい生活に耐える者』(保守派)の間でたびたび衝突が起きるようになった。その問題の要点は、"種族差別"と"収入格差"だ。本来なら、一方的に差別される共和派だが、圧倒的な収入格差により共和派の発言力が増加すると共に、密かに獣人と取引する隠れ共和派などの出現が、今の状況を作り出していた。


 一応街は、この問題に対して補助金や関税の引き下げなどの対応を取っている。しかし、幾つもの中間業者の手数料を減らすのには限界があるのに対し、(非国民である)獣人に税金を請求する事は出来ず、関税も関所を介していない(取引は街の外)ので請求できず。抜本的な解決策が打ち立てられずにいた。


「くっそっ。国は何を考えているんだ!」

「国賊の獣人を受け入れるなんて、今の政治は狂っている!」


 そうなると矛先は、国や政治家に向く。しかし、国は元よりリアスを見捨てており、一時的な休戦協定に対して労力や資金を投入する意志は存在しない。


「お前さんたちも冷静に考えてみろ。仮に休戦が終わり、獣人がこの地を去った後の村を……」

「「??」」

「あの強欲な商人たちが、今の買い取り額を維持してくれるか? 街は、変わらず補助金を出してくれるか??」

「間違いない、今の損失を穴埋めするために、また俺たちから全てを毟り取っていくぞ!!」


 農民は元々弱い立場であり、国や商人に足元を見られ、原価での取引を余儀なくされていた。現在の水準でも適性ラインに達した程度で、依然として厳しい生活をしいられている。


「おい! なんだあの煙は!?」

「なっ! あっちはワシの畑の方じゃないか!!」

「ハハハ、獣人に組するからバチが当たったんだよ」


 共和派が所有する納屋から火の手が上がる。当然、火種などあるはずもなく、不審火であることは明白だ。


 国から法的支援や資金提供は無い。それでも獣人やその支持者を妨害する方法は何か? そう、それは『物理的に共和派を排除してしまえばいい』のだ。それは、国としても損失が大きい行為だが……もとよりこの国に、平民を尊重する意思は存在しないのであった。


「あぁ、終わりだ。ワシの人生は……」

「はははっ! これは一家そろって首を吊るしかないな!!」

「誰か! ワシに小麦を売ってくれ! このままじゃ"国税"が……」


 農民にとっての国税は、毎年『定められた穀物の献上』であり、それが滞ると厳しい処罰を受ける。加えて、今回は温情の余地がある"不審火"が原因ではあるが、風当たりの強い共和派に対し温情が認められるとは考えにくい。


「これが逆族の末路だ! 獣人に組するヤツは、皆こうなるぞ!!」

「ふざけるな! どこまで、どこまで腐ってやがるんだ!!」


 しかし、本来なら従うしかない農民であっても、今、この現状では逃げ場があった。それは故郷や国を捨てる選択だが、それでも背に腹はかえられない状況ならば……人は時として決断するであろう。





「各地で、我々を妨害する者や……我々を支持する農家の方が被害を受けているようです」

「相変わらず、クズだよな人族って。俺たちが気に入らないなら、直接俺たちに勝負を挑めばいいのに!」

「自分の国のために、自分の国の資産である国民を攻撃するとは……。本当に、人族の価値観は理解に苦しみますね」


 リアス砦に、シロナや主要な獣人、そして人族を代表して騎士のリザが集まっていた。


「これは、その……」


 言葉につまるリザ。この被害は明らかに人族側が仕組んだ策であると同時に、著しく品格を欠く手段でもあった。


「これは、停戦協定の更新は"無い"と見て良いでしょうね」

「そうなのか? 停戦を破棄するなら、わざわざ回りくどい妨害をする意味は無いと思うが……」

「いえ、停戦協定が破棄されて困るのは人族側です。我々を挑発するのは、来るべき衝突に備え、資金や支持層を削ぐ狙いがあるのでしょう」

「「なるほど……」」


 国からすれば、リアスの経済格差や意識改革など、どうでもいい話。そんなものは領土を取り戻してから、いくらでも矯正できるのだ。しかし、そこであえて身を切る決断をするのは、その前に削がなければならない"何か"があるからに他ならない。


「ボス、それでどうするんだ? 俺たちは、年中挑戦大歓迎だが……」

「それで罪もない農村の方々が傷つくのは、寝覚めが悪いですね」

「それは当然……」

「「当然??」」

「こちらから打って出ます!」

「「よし来た!!」」

「なっ! お考え直しを! 今戦争になれば、多くの民が……それに! 相手の挑発に乗る形になりますよ!?」


 攻める決断に歓喜する獣人に対し、唯一リザは反対する。それは人族の代表としての意志ではなく、民を思う騎士としての見解であった。


「ですので、我々は停戦協定の更新期限を待ちません。すでにある程度の戦力を用意していると思われますが、即座に2つ目の要所であるグローに侵攻します!」

「「おぉぉぉ!!」」


 思いもよらない攻撃的な判断に、獣人が沸き立つ。ここまで来ると、何よりも"武"を重んじるシロナ陣営は止められない。




 こうして、人族とシロナ陣営の軍事的緊張は、一晩で塗りかえられる事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る