#004 神の住まう村②

「それでは冒険者の方々は指示にしたがい、森に入ってもらいます! 決められたエリアを……! ……!!」


 翌日の早朝。冒険者たちは広場に集められ、毎朝繰り返される説明に耳を傾けていた。


『思ったよりも少ないんだね。冒険者』

『無理もないのにゃ。そもそもキャツラは土地神の姿すら知らない、カタチだけの捜索部隊なのにゃ』

『そうなの? 村の人なら知っていそうだけど』


 シロナとニャアがヒソヒソ話をする。あまり褒められた行為ではないが、集められた他の冒険者の態度は更に酷いものなので、むしろまともに見えてしまう。


『昔はそうでもにゃかったのだけど、今は祠に御備え物を供えて、それで終わりの関係なのにゃ。まぁ、それも年々減って、今では風習だけ残っている感じなのにゃ』

『そうなんだ』


 この村は、確かに土地神の加護を受けた由緒ある村だ。しかし、近代の技術の流入や、国の方針などもあり、しだいに村は信仰心を失い、土地神に頼らない村となった。結果として土地神の力は大きく衰え、その恩恵は実感を得られるものでは無くなった。


 そんな村や土地神に目をつけたのが、現在村に駐留している軍閥貴族だ。貴族は武功を稼ぐため、あえて弱った土地神を選び、それを印象操作で悪者に仕立て上げた。


『それに、キャツラは本気で土地神と戦うつもりは無いのにゃ』

『そうなの?』

『もちろん、最終的には退治"した事にする"つもりにゃのだろうけど、結局のところ、危険な所に飛ばされたくにゃいから、やっているアピールをしているだけなのにゃ』

『あぁ……』


 本来軍の仕事は、大規模な野盗や、苔むした森のような冒険者では手が付けられなくなった魔物を退治する事なのだが、それはしない。何故なら、リスクがあり、失敗すれば自身の経歴に傷がつくからだ。


「それでは今から祠に向かう。冒険者は班ごとに……。……!」


 気が付けば兵士の長い話も終わり、ゾロゾロと冒険者が装備を整える。しかし、それでも貴族は姿を見せない。もとより、アピールのために神狩りをしているだけなので本人が顔を出すことは無い。当の本人は別荘をかまえ、そこで贅沢で自堕落な生活をおくっている。


「やぁ~、お嬢さん、キミは幸せだね~」

「?」

「なにせ、このボクのパ~ティ~に入れるのだから」

「「ふふふ、ホントよね~」」

「「??」」


 シロナに声をかけてきたのは、見るからに軽そうな男性冒険者。と、その両脇に抱えられているスタイルの良い女性2人。


「いや、だから、キミはボクの班に配属され、山を調査するんだよ」

「え? あぁ……その、よろしくお願いします」


 もちろん、班決めの話は今まで1度も無かった。兵士は決まった命令を復唱しているだけで細部には"我関せず"を貫いており、対する冒険者も絶対的な個人主義で、その場のノリで全てが決まってしまう。シロナが彼の班に配属されたのは、シロナが女性で、彼が1番女好きだったからだ。





『そう言えば、シロニャはにゃぜ、神狩りに参加したのにゃ?』


 祠に向かう途中で、ニャアがシロナに問いかける。


『えっと、土地神様に恨みは無いんだけど……ちょっと聞きたいことがあって』

『『…………』』

『その、聞きたい事って、何なのにゃ?』

『いや、その……上手く村の人と付き合っていく、方法を……』

『ぷっ! にゃははは、シロニャは、ホントに面白いのにゃ。にゃははは』


 シロナは、確かに土地神が討伐されんとしている事は知っていた。しかし、歴史のある村で、村人がここまで守り神の討伐に無関心であるとは思いもよらなかった。予想では、賛成派と反対派で対立しており、そのどさくさに紛れて土地神に"共存の秘訣"を聞くつもりであった。


『うぅ~、まさか、こんなにも村人が無関心だったなんて。知らなかったんだよ~』

『にゃはは、まぁ、そう思うのも仕方にゃいか。実際、50年くらい前までは信心深い者たちばかりだったのにゃ。しかし、2世代も入れ替われば、人の心は簡単に移ろってしまうのにゃ』


 この世界の人族は、成人が15歳からであり、平均寿命も60歳ほどとなる。よって、まだ信心深い世代は居るには居るのだが、それは少数であり、国や貴族に逆らえるほどの力は失われていた。


「もう直ぐ祠が見えてくるぞ! 皆、注意しろ! もしかしたら土地神がいるかもしれない!!」

「「きゃ~、こわ~ぃ」」


 男性冒険者と、その取り巻きのやり取りに、一同が複雑な表情を浮かべる。


 ――カチャリ――


『ねぇ、ニャア。アレは何?』

『贄なのにゃ』


 祠には小さな石の祭壇があり、そこには土地神を呼び寄せるために捧げられた"御供えもの"が並べられていた。


「……ずを、くだ……」

「ん~、捧げものに手を付けた形跡はないな」

「み…………さい」

「よし、皆の者。予定通り四方に散り、土地神を捜索するのだ!!」


 まるで、誰の耳にも聞こえていないかのように、擦れた声がさめざめと響く。


『シロニャ、落ち着くのにゃ!』


 祭壇には、村でとれた野菜が並べられており、中央には……


『ニャア、ここの土地神は……人を、食べるの?』




 獣人の子供がはりつけになっていた。

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