#003 神の住まう村①
「えっと、この村のはずだけど……」
地図を片手に、冒険者風の少女が村へとやってきた。
「お、そこのオマエ、"神狩り"に参加する冒険者だな!?」
「え? あ、はい」
突然駆け寄ってきた村人に対し、少女はとりあえず話を合わせてやり過ごす。
場所は、苔むした森から北に1日ほど歩いた山間部にある辺境の村。この村は"土地神"と呼ばれる強力な魔物の加護を受けた村として知られている。
「悪いが今日の探索部隊はとっくに出発した後でな。参加できるのは明日からとなる。それまでは……。……?」
村人が、なれた口調で少女を案内する。本来、冒険者などの余所者が来た場合、身元確認などが必須なのだが……村人は同じ作業の繰り返しで、そのあたりの意識が麻痺していた。
「はい、食事はあっちの広場で、寝泊まりは向こうですね」
「若い嬢ちゃんを野宿させるのは気が引けるが、嬢ちゃんも冒険者の端くれなんだろ? それなら、悪いが自分の身は、自分で守ってくれ」
「あ、はい」
それだけ言って村人が去っていく。
「はぁ~、宿に泊まれると、良かったんだけどな……」
この村は確かに、土地神に守られる神聖な土地だ。しかし時代は移り変わり、人々は守り神を必要としなくなった。苔むした森に強力な魔物が出現しても、大規模な討伐作戦が決行されなかったのは、この村での神狩りが難航していたのが原因だ。
「なんでこの国には、お風呂に入る習慣が無いんだろ。はぁ~~。とりあえず、露店でも観てまわるか……」
村の宿は、現在すべて滞在している軍に借り上げられている。代わりに冒険者などの余所者は、使われていない井戸を囲むように野宿での生活が強制された。
ともあれ、冒険者に対してはコレが一般的な対応だ。冒険者とはつまり賞金稼ぎであり、例外はあれど基本的には出来高払い。この村に集まった冒険者に対しても、村は一切報酬を支払っていない。支払われるのは、何かしらの功績を残した者に対してのみとなる。
「あの~」
「Zzz……」
少女は暇を持て余し、広場にある露店へとやってきた。しかし、捜索部隊が山に入っている現在、開いている露店は片手で数えられるほどだった。
「すいませ~ん!」
「ん? なんだ、冒険者か。ふぁ~~~。せっかくいい気持ちで寝ていたのに。たく、なんの用だい??」
露店主の露骨な態度に、引きつる頬を必死で堪える少女。
「えっと……その、串焼きをください」
「ん? 500n(nはお金の単位)だ」
「あ、はい」
「まいど」
「…………」
冷えきった串焼きを手に、少女が呆然とする。
「ん? なんだ、他に買うものが無いなら、さっさと行ってくれ。昼寝の邪魔だ」
「えっと、はい」
喉まで出かかった言葉を抑え込み、少女は大人しく引き下がる。露店主の対応は問題あるものであったが、残念な事に少女は"この村の"常識を持ち合わせてはいなかった。
仕方なく少女は、広場の隅で冷めた串焼きを齧りながら、村の様子をぼんやりと眺める。
「にゃ~ん」
「もしかして、
「にゃんにゃん」
やって来たのは野良と思われる猫。シッポが二股に分かれている以外は、極々一般的な容姿の猫だ。
「冷えて硬くなっているけど……猫舌にはかえっていいのかな?」
「にゃ~ん」
差し出された串焼きを猫が頬張る。しかし、少女は串を放さない。串焼きに埃が付かないよう、少女はゆっくり串を回しながら、猫に語り掛ける。
「ねぇ、アナタは何で"正体"を隠しているの?」
「…………」
「まぁ、無理に聞く気はないけど」
無言で串焼きを食べ続ける猫。このまま無言を貫くと思われたが、猫は食べ終わったところで、ようやく口を開いた。
「別に、隠していないのにゃ。ニャアの本来の姿は、むしろコッチなのにゃ」
「そうなんだ。ちょっと羨ましいかも。害が、なさそうだから……」
当然のように猫と会話を進める少女。
「?? それで、ウヌはなんで人族の姿をしているのにゃ?」
「私も同じ。これが本来の姿なの。まぁ、そもそも変身能力とか、持ってないんだけどね」
そう言って、少女が帽子に隠していた角をチラリと見せる。
「分からないのにゃ」
「??」
「ウヌはそんなに強いのに、にゃんで正体を隠そうとするのにゃ?」
「出来れば……人とは争いたくないの……。それよりアナタ、相手の強さが分かるの?」
少女は、相手の大よその魔力量を知覚できる。それにより、猫が普通の猫でないのは分かったが、具体的な力量や種族までは分からない。
「ニャアが分かるのは
格とは、生物そのものが内包している潜在能力であり、そこに修練や武装による変動は含まれない。
「なるほどね。ところでアナタ、私が怖くないの?」
「ん? ニャアはコレでもウヌより長く生きてきたのにゃ。
猫は、少女が自分よりも遥かに強い事を理解していた。しかし、だからと言って少女を恐れる事はしない。そこは年の功と言うべきか、結局のところ、危険なのは"力"そのものではなく、それを扱う者の"心"なのだ。
「そうなんだ。えっと、私の名前は"シロナ"! その、もしよかったらだけど……私と、お友達にならない?」
「……ニャアは"ニャア"だにゃ。でも、ニャアは群れるのが嫌いなのにゃ」
「そ、そう……」
「でも、ちょうど移住を考えていたところなのにゃ。だから――ヒョコ――しばらく乗り物としてウヌを使ってやるのにゃ」
そう言って猫は少女の肩に飛び乗る。一見すると小生意気な言い分ではあるが、猫とは元来そう言う性格であり、それを少女は知っていた。
「フフフッ、そうなんだ。それじゃ、よろしくね」
「にゃんにゃん」
こうして、シロナとニャアは出会った。
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