第4話 ブランコ

 いつの間にか赤く染まった――いや、そうではない。波長の短い色はとっくに去ってしまい、長い波長の赤色だけがぽつんと残された、そんな空だった。

 ブランコを漕ぐ。小さな町の、小さな公園。

 赤色だけが残されてしまって、寂しくないだろうか。屋根も電柱も樹木も山も、みんな赤くなり、知らない町を見ている気分になる。生まれて初めて見たような色彩が、毎日毎日、一日の終わりかけの空を巡っていく。雲が翼の形をしている。燃えるように光っている。ひとりぼっちで残された赤い色。愛しくないはずがない。私の体に取り込んで、ぎゅっと抱き締めてしまいたい。

 ブランコを漕ぐ影が地面に映る。長くなったり短くなったりする。鎖は私の手にあたためられてぬるい。隣ではあの子もブランコを漕いでいる。どちらが高く漕げるか夢中で競争をする。私が勝ったのよ。いいや、僕だね。言い合いながら、空に向かって爪先を突き上げる。鎖がぎいぎい言う。何だか笑いたくて、口許が緩む。あの子も一緒。笑っている。

 喉が渇いたので、ブランコに座ったまま、水筒のお茶を飲む。あの子にも分けてあげる。

 小さく漕ぎ出すと、心にぽっかり穴が空いていたことに気が付く。はっとする。急に疲れて悲しくなる。今空いたものではない。ずっと前から空いていたものだけれど、知らない振りをしていた。その方が楽だから、目を逸らし、心の底に広がっている闇の湖に、穴を隠した。ほっとした。もう大丈夫なのだと思い込んだ。本当はそうではなかったのだと、突然気が付いてしまう。

 あの子もそうだったのかも知れない。ぽつりぽつりと本心が漏れる。細い雨のように、私の胸に降り注ぐ。そんなことをしたって寂しい気持ちはなくならないのに、胸を開いて見せたくなる。ほら、これが本当の私の心なんだよ。全然綺麗ではないでしょう? そう言って、いっそのこと泣いてしまいたい。

 思い切りブランコを漕ぐ。あの子も漕ぐ。今度こそ負けない。体中を曲げたり伸ばしたりして、ブランコに力を注ぐ。空と一つになる。私の知らない赤い色が、私と手を繋いでくれる。

 鎖が千切れるくらいいっぱいに、高く舞い上がった。

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とてもつまらない三枚綴り短編集2 スエテナター @suetenata

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