第2話 丘

 赤茶けた土道の丘は夕日に輝いていた。

 僕が土を蹴りながら一人でその丘を上っていると、反対側の坂から潰れた制帽を被ったアイツが駆けてきた。帽子の下からでも色素の薄い茶髪がよく目立つ。針のように鋭く、ぱさぱさした髪だ。ナイフのような目と共に、アイツの個性になっている。

 アイツが駆けてきた方には駄菓子屋があって、クラスの暴れん坊たちが放課後寄っていこうと話していたので、大方アイツも暴れん坊たちに一人で対抗しようと思って、わざわざ絡みに行ったんだろう。喧嘩っ早くてずる賢い六人の軍団を冷やかしに行くなんて馬鹿げている。どうせ仕返しされるに決まっているのに。

 僕がそう思っていると、案の定、アイツの背中を追い掛けて、駄菓子屋の方から暴れん坊たちがやってきた。丘の上のアイツに追い付くと、アイツの小さな肩を小突き、からかい始めた。

「お前、金ないから万引きしたんだろう。駄菓子屋のおばちゃん、怒ってたぜ」

「貧乏なくせにおれたちの真似なんかしようとするからだ」

 軍団の中でも特に大柄な一人とひょろひょろの一人が、茶髪のアイツに嫌みを言う。

「待ちなよ」

 目の前で諍いをされてしまっては逃げるに逃げられない。僕は集団に近付いて言った。

「いくらなんでも万引きなんてしないだろ? そんな度胸のある奴、ここには誰もいないじゃないか」

 僕が言うと、暴れん坊集団は舌打ちをして逃げていった。

 茶髪のアイツは帽子の下で針のような髪の先を金色に輝かせ、足元に視線を落としていた。僕と何か話すわけでもなく、アイツは集団が見えなくなると、一散に僕のもとから逃げていった。

 僕は溜め息を吐いて歩き始めた。

 途中で駄菓子屋に寄って店番の人に「さっき、万引きされなかった?」と訊くと、店番の人はあっはっはと笑い「万引きなんてされやしないよ。みんなちゃんとお金を払っていったよ」と言った。

 ほら、誰も万引きなんてしていない。

 僕はオレンジ味の風船ガムを買って店を出た。

 一気に八粒口に含んで噛み砕き、一つの纏まりになったところで、思い切り膨らます。

 甘酸っぱい薄オレンジ色の風船は、僕の口元でぱちんと割れた。

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