第44話 図書館用品店 ララプロ
後日、パートリッジは城内図書館を訪ねていた。
関係者以外が城内へ立ち入る際には許可が必要だ。今回パートリッジは文書管理担当から許可をもらい城へと来た。その用向きは、
「商談。ということで許可を出してもらったよ」
城内図書館内の職員用事務室にパートリッジは通され、楓と向かい合う形で座った。
パートリッジが図書館に来た時、ちょうど楓は返却本を棚に戻していたところだった。サラにお客だと呼ばれ来たのがパートリッジだったことにはすごく驚いた。近々とは言ったもののまさか尋ねてくるとは思わなかったのだ。
しかし、それだけ楓が客になると考えていることがわかる。
「私ならば買わないということはないだろうと、見込んだわけですね?」
この前会った時には楓は話を聞きたいとしか言わなかったが、あれだけの食いつきようだ。商談をまとめられる自信がパートリッジにはあった。
「まあね。君には必要だと思ったから」
パートリッジのいう通りなのは癪だが、楓には図書館用品を問い扱う店が必要だった。
サラが来てからも、請求書の処理は楓が行っている。業務が半分になると考えればとても助かる。それに、開発して欲しい図書館用品だってたくさんあった。
「否定はしません。昨日のあれだったらそう思いますよね」
昨日とは変わって少し冷静になっている楓の様子を見て、先ほどまでの自信が少し傾いた。
(昨日のうちに商談しておけばよかったか・・・?)
この商売が成功するかは楓にかかっていると言っても過言ではない。城内図書館で使ってもらっていると言うことができれば、他の図書館にも売り込みやすいのだから。
当然、自社のサービスに自信もある。営業のために資料も用意してきた。
傾いた自信を立て直し、襟を正す。
「こほん!弊社のサービスとしては、各メーカーの商品をご紹介したものを購入していただき、それを配達するところまで請け負います」
「なるほど。まずは取扱商品を教えていただけますか?」
「カタログがありますので、こちらをどうぞご覧ください」
ここからは仕事だと気持ちを切り替えてパートリッジは先ほどまでの慣れた口調も仕事用のものに切り替えると、ビジネスバッグからカタログを取り出して楓に差し出した。
「拝見します」
事務用品、修理用品、施設備品、今この国で購入することのできるほどんどがカタログには載っていた。
まさかここまでの品揃えとは想像していなかった楓は、一度最後までバーッと目を通すとまた最初に戻って見直し始めた。
「これだけ集めるのは大変だったのでは?」
「ええ、ご案内しようにも選択肢が少ないのもなんですから、なんとか集めました」
若くして課長になったのは伊達ではない。あちこちに顔が効くようにしていたことも今回起業を踏み切れた理由の一つだ。
「んんー。では、寒冷紗と製本のり、禁帯シールをお願いできますか」
「承知しました。2、3日でお届けに参ります。あ、そのカタログは差し上げますから、必要になった時にでも名刺の番号まで御用命ください」
「ありがとうございます。じゃあ・・・」
聞いたそばから気になっている商品のあるページに折り目をつけて行く。
「これでよしと。またお願いしますね」
「よろしくお願いします」
「で、ここからが本題なんですけど・・・」
「??」
カタログを置いて楓はにっこりと笑う。
楓には以前より欲しいと思っていたものがあった。今までは図書館用品を専門に取り扱うお店がなかった分、図書館用品は置いてあれば御の字だった。それがこれからはパートリッジが図書館用品の小売りをするとなれば話は違う。
「ページヘルパーが欲しいんです」
「ページヘルパー?」
ページヘルパーとは修理用品の一つで、ページが破れた時に補修するテープのこと。今まではセロハンテープを代用していたが、それは年数が経つとテープのノリの部分が黄色く変色して本に残ってしまう。剥がれたフィルム部分は固まりパリパリになって崩れ去ってしまうのだ。セロハンテープは修理に向かない。
「経年劣化で変色しないテープを作ってもらえませんか?」
「そんなテープ、よく思いつきましたね」
「え?あ、ああ、そういうのがあるといいなーと思いまして。今すぐにとは言いません。いずれそんなのが使えるようになるといいな、くらいで考えています」
一瞬ドキッとした。ページヘルパーは日本で働いていた時に使っていたもの。自分が思い付いた訳ではないだけにあまり突っ込まれたくない楓は、話を切り上げようとしていた。
「ちょうど自社開発の商品を何を作るか決まってなかったので、検討します」
楓の願いが届いたのか、パートリッジはそれ以上深追いしてくることはなかった。
お互い握手をすると、パートリッジは王立中央図書館にも行くのだと城内図書館を後にした。
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