第13話 出向終了&報告書

 出向期間の3ヶ月は突風の如くあっという間に過ぎていった。出向最後の日にはみなさんを振り回しただろうことを謝って、自分の提案を受け入れ手伝ってくれたことに感謝を伝え学校図書館を後にした。

 城内図書館に戻った楓は学校図書館から上がった問題点、実施した改善策、それを受けて出た利用統計報告書をまとめたものを教育部のコネリー卿に提出した。


「なんだ、これは」

「出向していた間の報告書です。私が実施したこと、そしてその後の利用統計についてまとめました」


 ふんっと鼻を鳴らし楓の手から報告書を奪い取ると、適当にペラペラと捲る。流し読みでダーっと見ていたが、利用統計報告書まで来ると目線がぴたりと止まった。驚いた様子で数字を確認し、前のページへ戻っていく。そうして最初の方のページを確認するとお化けでも見たかのような顔で楓を見た。


「なんなんだ、これは」

「いや、ですから報告書です」

「それは分かってる。聞いてるのはそうじゃない。なぜこんなに利用率が上がっているんだ」


 報告書をパンパンと叩く。初めは数字を捏造したか思ったが、この統計は図書館側が出したものであり、校長の決裁印まであった。そんなもの捏造のしようがない。


「報告書の最初の方に記載しましたが、3つの改善策を実施した結果の数字です」

「だがこんなもん・・・」


 まだ懐疑的だったコネリー卿はなんとか難癖を付けたかったが、図書館に詳しくなく具体的な話ができず尻つぼみになった。

 そこに間髪をいれず、楓は指摘を入れる。


「では、あなたが図書館に出向したとしたら思いつきましたか」

「それは・・・」

「3ヶ月の間に対策を考えて実行して結果出せますか」


 ここまで詰めるともはやぐうの音も出なくなっていた。楓の言う事がど正論すぎて、何も返せない。


「これらの策は司書の勉強をしたからこそ、出せたことなんです」

「う・・・。ま、まあ、そういうこともあるかもしれないが、教育部だけでは判断出来ない。当然だろう?他の関係部署も了承しなければ司書専攻は開設できない」


 報告書を閉じて、楓にはっきりと言い渡す。楓もあの手この手で反対するだろう事くらいは想像がついていたが、ここで引くわけにはいかない。


「図書館法の施行には、司書専攻開設がなくてはならないんです。それでは図書館法を施行する意味がなくなってしまいます」


 法律だけあっても、職員が理解していなければなんの意味もない。図書館法はどんな概念のもと図書館を運営するのかという指針になるもの。それを理解していないと当初の目的、図書館サービスの底上げはできないのだ。


「そうなると、ことは教育部だけの問題ではない。図書館法の施行は国王も関わっていると聞いたぞ」

「ええ、まあ」

「(最初からそう言えよ・・・!)・・・コホン!そう言うことなら、教育部も前向きに考えよう」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 これで話は一気に進むと思うと、感無量で涙が出そうだった。3ヶ月間頑張った甲斐があるというものだ。


「あー、それでは、来週協議の場を持てるよう依頼しておく」

「はい、よろしくお願いします。校長にはすでに了承を得ていますから、すぐ日程の調整に入れると思います」

「なんだと⁇校長と話しているのか⁉︎」

「この3ヶ月で校長と何度かお話しさせていただいた折りに、協議の場を持つことは約束いただいていました」


 キョトンとした表情で言う楓に、コネリー卿はあまりの驚きのあまり言葉も出なくなっていた。

 それもそうだろう。彼はここまで話がまとまっているとは想像もしていなかった。どうせ結果を出すことに精一杯でその先までは手が回るはずない。そもそもそんな簡単に結果が出せるわけないのだから、悔しそうに詫びを入れてくるだろうと安易に考えていたのだ。

 では、失礼しますと声をかけて退室する楓を見送り自席に戻ると、コネリー卿は椅子に腰掛けひっくり返った。


「あっぶねー!」


 このまま反対し続け結果図書館法の邪魔をし続けてたら、王命に叛くことになっていたかもしれない。それは職を失うどころか、ことによっては一生牢獄で過ごす事を意味していた。あのまま司書専攻開設を反対し続けていたらまずいことになっていたかもしれないと思うと背筋に冷たいものが走る。

 さらには、セントパンクロス大学校の校長の顔に泥を塗る羽目になっていたかもしれない。そうなればこの職場で働く以上支障が出ていただろう。いずれにしても最悪の事態になっていたはずだ。

 両腕を抱えて震えるコネリー卿に、隣の席に座る同僚がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「おい、お前なんかやばいことでもやったのか〜?」

「ばか、そんなわけないだろ。あっちがちゃんと説明しないから、危なくそうなるところだったってだけだ」

「なーんだ。面白い話かと思ったのに」

「面白くねえよ全く。いいから仕事しろ」

「ホイホイ」


 同僚の肩をバシッと叩くと、デスクに向かい溜まりに溜まった仕事を片付け始めた。

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