第4話 コーナー展示を作ろう

 翌日、楓は今年度のシラバスをもらい今現在の学校のスケジュールを確認する。すると、今は中間試験期間のちょうど1ヶ月前だと言うことがわかった。道理で図書館内で勉強する学生が多かったはずだ。そうなれば、コーナー展示のテーマは決まったも同然。

 コーナー展示の各科の試験内容に類する本を集めるところから始まった。


「さすが学校図書館。専門書が充実してる」


 学校図書館の利用者は主に先生と学生。選書の範囲もそこに集中することができるため、一般の図書館よりも専門的な本などのコアな本が多くなると言うのが学校図書館の特徴だ。対してさまざまな利用者に対応する本を選ぼうとするのが公共図書館の特徴。学校図書館よりは専門的な本は予算の都合上揃えきれないが、収集する範囲が広いのだ。そのため、学校図書館に楓も読んだ事のない本が数多く所蔵されている。

 その中からコーナー展示に使う本を選定するため、まず初めにこの図書館で働いてる司書数人に声をかけ、この時期借りられやすい本を教えてもらった。本当なら自分で目を通して探したいところだが、全ての本に目を通すには時間が足りない。そこで餅は餅屋、ここの司書に聞くのが1番いいだろうと判断したのだ。

 教えてもらった本の中からコーナー展示のスペースも考えながら選んできたら、今度はその本を記録する。次回同じようなコーナー展示をしたい時に一から探さなくてもいいようにするためだ。記録した紙はファイリングしておく。


「さて・・・、横幕よこまくと紹介文を作りますか」


 横幕とは、展示スペースにテーマを書いて貼る長方形の紙のこと。遠くから見ても目を引くよう、コーナー展示をするときは必ず横幕を貼っている。

 ここにはパソコンなんて便利なものはない。そのため、色紙を使いペンや本など試験を連想させるアイテムを作って装飾し、題字をポスカのようなインクを使って書いていく。それ以外にも横幕の近くに飾るための装飾も作っていかなければならないのだが、


「これじゃあ全然終わらないよ・・・」


 ため息混じりにデスクを見回すも、どれも手間のかかる作業ばかり。お昼から取り掛かったが閉館時間の近づく今もまだ作業は6割ほどしか終わっていない。

 今日中の完成を目標にしていた楓はがっくりと肩を落とした。


「あの、手伝いましょうか?」

「え?」


 声をかけてきたのは、ケイリー。この学校図書館で書架整理のため雇われているアルバイトの女性だった。


「いいんですか?」

「ええ!閉館した後ならお手伝いできますから、ちょっと待っててください」


 彼女はそう言うと、返却本を棚に戻すためカウンターに戻る。

 閉館作業が終わるとまた楓のところへやってきた。近くにあった椅子を寄せて座ってもらう。


「あの、ガーランド卿、」

「ケイリーさん、もし嫌じゃなければ皆さんにしているように普通に呼んでください。敬称はいりませんから」


 ケイリーからすれば楓は身分が上。敬称を付けないで呼ぶことはありえない。しかし、学校職員は貴族と庶民の身分の差を埋める試みとして、身分から来る敬称をやめるなどのルールが設けられていた。自分も早く馴染みたいと思っていた楓とっては思い切っての提案だった。

 ケイリーは突然の申し出に驚いてはいたが、楓がいいならと快諾した。


「あ、えっと、ガーランドさんがこれを作っているのを見て、気になってて」

「もしかして、こういう作業お好きですか?」

「はい」


 猫の手も借りたいほど困っていた楓にとっては願ってもない話だった。ケイリーが申し出てくれていなかったら、この作業で明日も潰れてしまうところだった。


「助かります。早く完成させてしまいたかったので、人の手を借りたいほどだったんです」


 そう話しながらすでに形通りに線を引いてあとは切るだけになっていた色画用紙を渡すと、すぐに作業に取り掛かった。勤務時間終了時間まであと30分ある。それまでに完成させられるよう、楓は作業の手を早めた。


「おや、それいつまでに作るんだい?」


 閉館作業を終えた他の司書たちも事務所に戻ってきた。作業をする2人を見て声をかけてきたのだ。


「出来れば今日中にに終わらせようと思っています」

「じゃあ、手伝うよ。どれをやればいい?」

「うわ、助かります!ではこの紙を貼り合わせてもらえますか?」


 楓はケイリーが切った紙を声をかけてくれた司書たちに渡した。


 ⌘⌘⌘⌘⌘⌘


「できましたね!」


 勤務終了時間から5分ほど過ぎた頃、急いで作業した甲斐あって、なんとかその日のうちに完成させられた。


「できたー!みなさん本当にありがとうございます!」


 手伝ってくれたみんなに頭を下げると、いやいやと言いながら解散していった。


「ケイリーさんも、付き合わせてしまってごめんなさい」

「いえいえ、楽しかったです」

「そう言ってもらえると嬉しいです。さ、帰りましょうか!」


 作業の時同様急いで片付けを済まして、楓とケイリーも帰宅の途へついた。

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