2 図書館を発展させるには

第1話 図書館法を作りましょう 1

 シャルロット嬢の事件があってから2年、楓にはいつもの日常が戻っていた。その間の大きな変化といえば、アーキュエイトの業務が激減したことだろう。楓がとことん作業の最適化を図った結果、週一度の出勤で捌けるまでに業務が簡略化された。今は繁忙期を除いて週に一度出勤している。

 他の日は全て城内図書館で働くようになっていた。汚部屋を脱却したものの、城内図書館にはまだまだ改善点が幾多残っている。どうしたら城内図書館を使う人たちにとって利用しやすい図書館になるか常に変化し続けなければならない。

 そして何より、解決しなければならない大きな課題があった。


「ガーランド卿?」


 今日は、王立中央図書館のトップ2人と楓、そしてレオンが集まり会議をしていた。王命で始まった図書館法の制定のため骨子を考えるための会議で、解決しなければならない大きな課題とはこのことだった。


「あ、すみません。少し考え事を・・・」


 ボーッと考え事をする楓に声をかけたのは王立中央図書館副館長、ジェイコブ・ペンフィールド男爵だった。

 声をかけられてハッとして周囲を見ると、皆楓を見ていて恥ずかしさが込み上げる。


「疲れか?今日の会議はここまでにしてもいいが・・・」

「あ、いやいや!大丈夫です。続けましょう」


 もともとアーキュエイトの事務と城内図書館とで二足の草鞋を履いている楓。さらに図書館法も考えなければならず、過労かと心配されるのも無理はない。


「本当にちょっと考え事してただけなんです。図書館の司書の勉強ってどうしてるんだろうって」

「勉強?それは仕事についてから覚えるものだろう?」


 日本なら司書は国家資格であり、各図書館必ず司書の資格を持つ者を最低でも1人配置されていなければならないことになっている。採用条件によって資格がなくても働くことはできるが、図書館で働きたいと思っていたら司書の資格を取る人が多い。

 資格取得の方法は2通りある。短大や大学の図書館司書課程を専攻し、卒業すること。そして、司書過程のある大学の短期講習を受講すること。前者は図書館での実習が受けることができるが、後者は短い期間で終了するが実習がないというのが特徴だろう。図書館法に基づき、このいずれかの方法で資格を得ることが出来る。

 しかし、セントパンクロス国で司書は資格でもなければ、図書館について勉強することなく図書館に入るのが普通だった。


「今はそうですよね。でもそれだと図書館によってサービスが変わってしまうんです」

「?」

「今の現状として、各図書館で働き始めてから図書館司書の仕事を知ることになります。それはそれで各地域に沿った図書館というのが出来て面白い図書館になるのですが、それは利用者のために成長し続けようとする図書館の話です」

「ノウハウを知らないものは淘汰されてしまうだろうな」


 楓はこれまで大小含め何箇所かの図書館を見に行っていた。図書館法を定めるにあたって、現場の現状を知るためだ。想像にはしていたが、サービスに大きな地域差が生じているのが現実だった。戦前の日本のように入館料をとっているところや、閉架へいかと言って利用者が直接本を取れないようにしているところもあり様々だ。善し悪しは分かれるが、そういった図書館は利用者を選ぶ分公共性を損なう。


「図書館は皆が等しく利用できる場所であるためには、図書館とはそういう場所なのだと司書全体が理解していないとそのまま次の世代へ引き継いでしまうことになります。さらに、今まで1から10まで教えていた現場にとっても、その労力を他に割くことができる様になります」

「確かに先に知っていてくれると助かる」


 王立中央図書館の館長リオン・カウリング卿がそう賛同すると、横に座るペンフィールド卿も頷く。

 図書の配置や図書館職員としての考え方・・・。教えなければならないことはたくさんあり、それを全て伝えるには時間も労力もかかる。


「それから、せっかく作った法律を現場の職員が全く理解していないのでは困ります。そこで、セントパンクロス大学校の司書課程の開設と人材育成を図書館法に盛り込む必要があるんじゃないかと思うんです。それから、各図書館に必ず1人司書を設置の義務化も」

「必ず1人は法律を理解したものを置くためか」


 法律で設置が義務化されれば否応なしに勉強しなければならなくなる。

 王都には日本の大学にあたるセントパンクロス大学校がある。ここでは経済学や数学などの学問が学ぶことができるのだが、ここにさらに司書課程を開設したいというのが楓の理想だった。


「そうなると、教育部との協議が必要になるな・・・」

「予算も絡んできますもんね。司書課程を開設することで生まれる利益を説明しないといけないですね」

「財務部にも話を通しておかなければな」


 前回のようにギリギリになって申請するわけにはいけない。流石に今回は心象が悪すぎる。


「ですよね・・・。ではまず、教育部と学校にする説明をまとめましょう」


 楓は会議室にある黒板にさっきあげた利点を書き上げ、ぴたりと手を止めた。

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