第42話 気づいたこと
なんでこんなことになってしまったのか。楓たちが帰ったあと、シャルロットは牢の中で膝を抱え考えていた。
「使用人が、使用人じゃない?付き纏ってたんじゃなくて、仕事の報告?」
楓が言っていたことは、シャルロットにとって青天の霹靂だった。
「それがなんなのよ。そもそもそれが本当なのかも・・・」
楓に嘘をつく必要があるだろうか。はたとそんな疑問が浮かび、独り言が止まる。かわりにふいに思い出されたのは、幼少期のことだった。
10歳になったころ、シャルロットに新しい友達ができる。子爵家の令嬢で相手の家の方が身分は上だったが何かの集まりで会った以来よく遊ぶようになったのだ。しかし、ある日その友達と喧嘩してしまった
「シャルロットちゃん、私そんなこと思ってないよ?」
「なによ!どうせ身分が違うってバカにしてたんでしょう!」
「違うよ!」
「嘘!もうあなたとは遊ばない!」
シャルロットは、父にこのことを相談した。今までは母イザベラに相談していたが、イザベラはシャルロットが9歳の時に亡くなった。
「お父様、あのね、友達と喧嘩しちゃったの・・・」
「友達と喧嘩を?そんなもの、合わなければ付き合いをやめてしまいなさい」
「え・・・?」
勢いで遊ばないと言ったものの、本心ではまた遊びたかった。母に相談していた時は経緯を聞いて、仲直りする方法を教えてくれていた。同じように仲直りしたくて相談したのだが、父の返答は想像していたものとは全く違い、当時のシャルロットにとっては冷たく感じる。しかし、父がそういうのならと、言われた通りにした。
当然、友人関係は途絶えた。
以降、父は何を相談しても同じように関係を断つようなアドバイスばかりだった。シャルロットは父の言うことだからと従って生きているうちに、父と同じような、都合が悪ければ排除するような考え方になっていく。
「シャルロット嬢、それは誤解だよ。よく考えてご覧よ」
「何が誤解なのよ。もういい!今後連絡しないでちょうだい」
そうして父に影響されていくうちに注意をしてくれるような人間を片っ端から関係を絶つようになり、気がつくとシャルロットの周りから注意してくれるような人はいなくなっていった。
今まで疑問に思ったこともなかったけれど、今思えばあの時喧嘩したあの子だって嘘をついていたわけではなかったのかもしれない。今まで関係を断ってきた誰しもが悪意があったわけじゃなかったのかもしれないことに気づいた時、シャルロットは目が覚めるような気持ちだった。同時に羞恥心と後悔の念が同時に押し寄せる。
「私は今まで・・・」
これまでの関わった全ての人が頭の中をよぎり、答え合わせをする様に相手との会話を思い出していた。
「・・・謝っても、信じてもらえないわよね」
今までの行動がいかに酷かったかは自分が1番とよくわかっていた。時間だって経ちすぎている。
「お母様なら、どうしたかしら・・・」
彼女にとって救いは母という存在だった。母なら、と考え始めると牢に備え付けられている簡素なテーブルに向かい、自分の気持ちを整理するようにノートに書き留め始めた。
⌘⌘⌘⌘⌘⌘
翌日
牢の中に牢屋番が廊下を歩く革靴のコツコツとした音が響き渡る。牢屋番はシャロットの牢の前で立ち止まると、ポケットから鍵の束を取り出す。
ガシャン
「取り調べだ。出なさい」
先日のキャンベル元男爵に引き続き、これからシャルロットの取り調べが予定されていた。牢屋のある部屋の外には取調官が待機している。
「はい」
書いていたノートを閉じ言われた通り牢を出ると、両手に手錠を付けられる。そして、促されるまま牢屋の外へ向かうと、外に待機していた数人の取調官に身柄が引き渡され廊下を進む。取調室は同じ階にあった。
「入りなさい」
連れて来られたのは捕らえられた時にいた部屋と同じ部屋だった。あの時とは違い、部屋の中央に椅子が2脚とテーブルが1台あり、部屋の角に書記用の椅子と机が設置されている。
部屋の奥側の椅子にかけると資料を持った取調官が入室し、シャルロットを連れてきた取調官は1人を除いて退室した。取調官は1人がシャルロットの前に、もう1人は書記用の机に腰掛ける。
「さて、これより取り調べを開始する。まず初めに、君には捕らえられた罪の他に訴えが上がってきているが、心当たりはあるか」
「あり、ます」
もう訴えが出ているかと事の運びの早さにシャルロットは驚いた。楓も共に来ていたレオンが話していたことを思い出し納得した。シャルロットの標的は皆レオンの関係者だったのだから、レオンが前もって伝えていても不思議ではない。
「そうか。それではその訴えについても事実かを調査した上で、違法と判断された場合は処罰されることとなることをあらかじめ説明しておく」
「はい」
もう、以前までのシャルロットはそこにはいなかった。取調官を真っ直ぐに見つめ返事をするシャルロットに、取調官は人がすり替わったのかと思ったほどだった。
「では今回の取り調べは、カエデ・ガーランド男爵に薬を盛り危害を加えようとしたことについてだ。これから示す事柄で事実と異なることがあれば、異議を申し立てることができる」
「そうなんですか」
「くれぐれも、事実を
「分かりました」
「では、始める。まずは・・・」
取調官は机に両肘をつき手を組むと、取り調べを開始した。
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