第35話 内偵調査 2

「決行の日は交流会としよう」


 調べが入っていると感づかれていると知った上で、すぐに決行しないというレオンに、ハリーもケネスも疑問を抱かずにいられなかった。


「何故ですか?私たちはすぐにでも動けますが」

「キャンベル卿が処分しているのは不正に得た金で購入したものだろう。金額から考えてかなりの数のはずだが、おそらくまとまった金を作り土地に化けさせるつもりだ。まとまった金を作れるまでは逃げはしないはず。よって、これから内偵業務は一切止めて油断させ、シャルロット嬢共々摘発する。王には私から話を通す」

「「了解」」

「よし、ここで5分休憩にしよう」


 レオンはおもむろに立ち上がって部屋を出る。自分のデスクにあるカップにカフを注ぎ当日の流れを思案していたら、ハリーとケネスも資料を手に部屋を出てきたのが見える。


「この後資料は使いますか」

「いや使わんだろう」


 それを聞いて2人はデスクの鍵付きの引き出しに資料をしまい鍵をかけると、レオン同様カフを飲んで一息ついたり、体を伸ばすなりしていた。5分経つと部屋に戻り、会議の続きが始まった。


「さて、当日の流れはこうだ。交流会でシャルロット嬢が飲み物に何かを仕込んだところで取り押さえる。王の立ち合いのもと追及し、親であるキャンベル卿にも同席させる。シャルロット嬢の処分が決まったらそのままキャンベル卿への取り調べへ移行する」

「シャルロット嬢が実行するまでの間それぞれに張り付きますか」

「ああ。ハリーはキャンベル卿、ケネスはシャルロット嬢についていてくれ。一応カエデにも手違いで何か起こらないよう誰かをそばに置いておきたいのだが・・・」


 ハリーとケネスがそれぞれついてしまうと残るはレオンしかいないが、レオンがカエデのそばにいると分かれば何するか分からない。それに、その後の流れのために張り付いているわけにもいかない。文書管理担当以外にも手を借りなければならない状況だった。


「いっそ本人に伝えるのはどうでしょう。彼女に誰かついてもらうとなると、誰かに計画の一部を伝え協力してもらうことになります。それならば、本人に伝えて協力してもらった方が上手くいくのではないかと。全て説明しなくても、飲み物に気をつけるよう警告するだけでも・・・」


 ケネスの提案にハリーがいや、と頭を振る。


「それだと、シャルロット嬢がグラスに薬を入れるチャンスを逃すかもしれない。現行犯でないとさっきの計画は成立しないしな」

「たしかにそうだな・・・」

「元を正せば彼女も文書管理担当だ。いずれはこの役割について知る日が来るなら今知ったところで同じだろう。ガーランドに協力してもらおう」


 レオンは部屋に設置されている電話で城内図書館に内線をかける。


「はい、城内図書館、ガーランドです」

「文書管理担当ベイリーだ。今上に上がってこられるか?」

「はい。今行きます」

「事務所横の部屋に来てくれ」


 10分ほどして楓がやってきた。初めて入る部屋だったからかおずおずと部屋に入ってくるのを手招きして椅子に座るよう促す。


「突然呼んですまないな」

「いえ、来館者もいなかったので」


 椅子に腰掛ける楓に詫びを入れると特に気にしていないという反応だ。


「ガーランドに来てもらったのはある計画に協力してもらいたいことがあってだ」

「協力、ですか」

「数ヶ月後、王主催の交流会がある。職員と貴族が交流する会で職員は基本強制出席となっているが、その交流会でシャルロット嬢が君の飲む飲み物に薬を混入しようとしているらしい」

「は!?」


 楓は目を見開き立ち上がらんばかりに驚いた。薬を盛られそうになったのだから当然だ。しかし、まだ話は終わっていなかった。


「幸い、薬屋が胃薬を渡してくれたそうだ。酔いやすくはなるが、危険が及ぶほどでは無いらしい」

「そう、ですか・・・」

「協力してもらいたいことというのはここからで、彼女を現行犯で捕まえキャンベル卿もまとめて捕まえてしまいたい」


 突然出てきたキャンベル卿の名に、今度は目をパチクリさせていた。


「シャルロット嬢はわかりますが、キャンベル卿はなぜ?」

「彼は公金を不正に横領している。証拠もあるが、こちらの動きを察知し逃げられるようなことがあってはいけない。そのために協力してもらいたいのだ」

「なるほど。具体的に何をすればいいんですか?」

「交流会当日、給仕が飲み物を随時配っている。君は飲み物を受け取り、テーブルに置いて席を外すなどして薬を混入出来る隙を作って欲しい。薬を混入したのを確認したらすぐ捕まえ、保護者としてキャンベル卿を呼んだと見せかけ捕まえる」

「わかりました」

「ただし、一度置いた飲み物は薬が入っていると想定して飲まないように」

「置いた飲み物を誰かが飲んでしまう可能性はありませんか?」

「それについては問題ないよ。シャルロット嬢の動向は僕が見張る段取りになっているから、何かあれば対応するよ」

「それは安心ですね」

「他に質問はないか」

「ありませんが、文書管理担当てこんなこともするんですね」

「ああ。王の命を受けたときだけだがな。このことについては他言しないように。では、当日はよろしく頼む」

「了解しました」

「と、いうことだ。クーパーとフックウェイも当日は頼んだぞ」

「「了解!」」

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