最終話 その後

 交流会から2ヶ月後、調査と取り調べの結果、キャンベル元男爵とシャルロットの刑が決定した。キャンベル元男爵はインジュリーの社長との他に数件の横領が判明し禁固20年、シャルロットも以前した御令嬢への嫌がらせの数々が被害者によって訴えられ、禁固5年となった。

 キャンベル元男爵は最後の最後まで否認や嘘を繰り返していたが、一つ一つ証拠を突きつけられ最終的には全面的に罪を認めた。平民としての扱いをされるのが我慢ならないようで、早々に問題を起こしているらしい。

 一方、シャルロットは憑き物が取れたかのように最初の取り調べから素直に自供しており、その様子を考慮し刑が相場よりも少し軽くなっていた。日々の労働にも真面目に取り組み、意外にも裁縫を気に入って頑張っているという。上手くいけば模範囚として早く刑期を終えられるだろうと言われていた。


 キャンベル親子の事件が落ち着いたある日、楓はロゼッタに仕立ててもらったドレスを身につけ、珍しく馬車に乗ってある場所へ向かっている。小窓から外の景色を眺める楓の顔にはワクワクと緊張の色がおり混ざっていた。なんせ今日はレオンの結婚式なのだから。

 受付を済ませて開かれた扉をくぐると、重厚で格式のある雰囲気の会場が待っていた。受付で言われた指定のテーブルに行くと、既にハリーやケネスが着席していた。


「お疲れ様です」

「お疲れ様〜」


 楓がレオンに婚約者がいると知ったのは、シャルロットが捕まったあと。なんならこの結婚式の案内をもらった時だった。

 以前から婚約が決まっていたものの、シャルロットが相手を攻撃しないよう親戚にも箝口令を敷いて厳重に対策していた。そのため、ハリーやケネスだって知らなかったのだから楓が知らなくて当然だ。招待を受けて日にちがそんなにない事を知ると、急いでこの世界の作法を学んだが、急であるが故にレッスンが厳しくトラウマになったのはまた別の話だった。


「新郎新婦入場です」


 定刻になり司会者のアナウンスで会場の入り口が開くと、真っ白な燕尾服に身を包んだレオンと同じく真っ白なドレスに身を包んだ新婦アイリーンが入場する。

 日本で言う高砂的な位置に用意された2人の席にそれぞれが着席し、司会者が2人の紹介を始めた。それが終えると、国王による乾杯の音頭、お色直しと進行し、気がつけばあっという間に式は終了の時間となっていた。新郎新婦とその家族に見送られ会場を出て馬車へ乗り込むまでの道すがら、楓はハリーとケネスと一緒だった。


「もう、終わりなんですね〜」

「ゲイリー卿、顔には出さなかったけど」

「政略結婚で仕方なくっていうわけではなさそうだ」


 レオンとアイリーンを引き合わせたの家同士の見合い話からだったわけだが、実際会って満更でもなかったということは両親も知らないことだった。アイリーンは最初こそレオンのストーカーが居るとの噂を聞いて色々と心配していたが、事が運ぶにつれてアイリーンもレオンの誠実さに気づくと、レオンの考えを汲み行動するようになっていく。特にシャルロット対策において相談しなければならない場面は少なくなかった。そうやって2人の絆が深まったのだから、あながちシャルロットのおかげと言っても過言ではない。


「いい雰囲気の式でした」


 余韻に浸りながら歩いているうちに馬車乗り場についていた。ハリーとケネスには実家からの馬車が、楓には今回依頼した貸し馬車が待っている。じゃあまた、とそれぞれが自分のところの馬車に乗り込んだ。


 ⌘⌘⌘⌘⌘⌘


 レオンの結婚式からさらに2年の年月が経った。楓は相変わらずアーキュエイトと城内図書館と王立中央図書館の三足の草鞋で働いている。とは言っても、王立中央図書館の運営はおおむね順調でたまに相談が来るだけになっていた。城内図書館も着任した時のような本が床に散乱し埃だらけの状態から脱却して、掃除の行き届いた整った図書館へと様変わりした。この頃には楓は城内図書館の主と呼ばれるようになっていた。利用する職員からは本が探しやすくなったという声や、鼻炎持ちが来館しやすくなったとの声が出ている。さらに、王立中央図書館が共に声を上げてくれたことにより、この国でも図書館法が制定される運びになった。楓を中心に法律案の骨子を鋭意制作中だ。

 これらもろもろの功績を評し、楓は男爵から子爵へと陞爵しょうしゃく。仕事を掛け持ちしていることを考慮され、土地は与えられなかった。貴族は領地を持って1人前とされているので周囲からは励ましの言葉をもらったが、楓はこれ以上仕事を抱えれば死んでたと、内心ほっとしていた。


「ガーランド卿、この過去10年間の出生数について調べているのだが、いっぺんに見られるようなものはあるか?」

「過去10年間の出生数ですね・・・。御案内します」


 尋ねてきた男性職員を連れ棚に入ると目的の本は見つかり、男性職員は本を借りて図書館を出ていった。

 楓はそれを見送ると、さっきまでしていた修理の作業の続きに取りかかる。以前より良くなったとはいえ、やることはたくさんあった。この図書館も、この国全体の図書館も、もっともっとより良くなっていくようにと願いながら、修理用の机に向かい修理本に迷い無くナイフを入れた。

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