第40話 交流会 3

「私ならば、裁く権限があろう?マーク・キャンベル」


 部屋に入ってきたのは、交流会に参加しているはずのガブリエル王だった。


「ガブリエル王・・・」


 まさか王が出てくると思っていなかったのだろう。さっきまでの勢いはすっかり消え、再び吹き出し始めた汗を腕で拭った。


「聡明なガブリエル王なら、私の無実を・・・」


 か細い声だった。一縷の希望に縋るような気持ちだったのだろう。しかしすぐにその希望はたち消えた。


「たわけ!決定的な証拠もなくこのように追及すると思うのか!」


 ガブリエル王の怒りに触れ、キャンベル卿は腰を抜かし娘同様座りこんでしまう。そこに連れて来られたのはインジュリーの社長だった。


「彼の聴取はもうすでに終了しています。あなたとの関係性も、不正についても全て話してくれました、

「き、貴様!」


 裏切ったインジュリーの社長を怒りに任せて掴みかかろうとしたその時。


「いい加減にせんか!!」


 再び王の叱責を受けインジュリーの社長への怒りは吹き飛び、再び膝をつき懺悔した。


「申し訳ありませんでした」

「マーク・キャンベルは貴族の身分を剥奪の上勾留、娘シャルロットは勾留及びカエデ・ガーランドへの2メートル以内の接近を禁ずる。刑罰については取り調べを行った後決定する。よいな」


 もはや空気となっていたシャルロットにも処分が言い渡されたが、2人とも一言も発することが出来ないほどの落ち込みようだった。


「捕えよ」


 王の命で2人は兵士に捕らえられ、牢屋へ収容されることになった。


 ⌘⌘⌘⌘⌘⌘


 楓がトイレから戻ると、置いておいたグラスは無くなっていた。辺りを見渡してもさっきまで近くにいたシャルロットとケネスの姿もない。


「(計画通りに進んだってことかな)」


 近くに訊ねられるような人もいないので、ひとまず給仕から新しいグラスをもらい壁にもたれ掛かる。折角の交流会だがまだ貴族としての振る舞いに自信がない分、新たに交友をという風には思えなかった。そんなわけで1人寂しくグラスを傾けながら人間観察をしているところに、カウリング卿が声をかけてきた。


「ガーランド卿、久しいですな」

「お久しぶりです、カウリング卿。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」


 挨拶回りには行っていたが、交流会の参加者は招待者のパートナーも含めて400人弱いる。その中から目的の人を全て見つけるというのは非常に難しい。それはカウリング卿も十分理解していることだった。


「いやいや、監修をお願いしているのだからむしろ私こそ挨拶に来なければならないところ。こちらこそすまない。ところで、中央図書館の庶民の利用者が少しずつ増えてきている。以前より利用しやすいと口コミが回っているらしい」


 図書館に起きた変化について話すカウリング卿の顔は綻んでいて、楽しそうだ。


「そうでしたか!」

「特に子どもを持つ母親は本を壊すことを恐れて、子どもの絵本を借りられないという実態があったようだ。修理ができるようになってから安心して借りられるようになったと」


 たしかに、子どもが本を読む時には力加減がうまくいかなかったり、乳幼児は紙を破くのが好きだったりして絵本を破損してしまうことがある。修理ができればそのまま図書館資料として使えるが、中央図書館ではいままで即弁償という対応だったため庶民の親子での貸出利用が少なかった。修理してくれるようになったと聞いて最近チラホラと利用が伸びてきている。


「そのうち庶民の利用率はさらに上がっていくだろう。ガーランド卿のおかげだ」

「いえいえ。皆さんが努力なさった結果ですよ」


 ちょっとした反発はあったものの、結局のところ現場の職員が柔軟に対応してくれているのは大きい。職員で対応が変われば不信感を招くのだから、対応を揃えられたことが信用に繋がったのだ。


「たしかに、職員のみんなはよく頑張ってくれている」


 うんうんと頷くカウリング卿は職員たちの顔を思い出していた。賛成派も反対派も、根本的に利用者のためにありたいというのは変わらない。利用者のためになると一度思えれば切り替えは早く、新たに生じ始めたニーズも敏感に察知して取り組んでいる。

 そうしてしばらくカウリング卿と図書館について話していると、そこにレオンがやってきた。


「ご歓談のところすみませんが業務が入りまして、ガーランド卿をお借りしてもよろしいでしょうか」

「ええ。ガーランド卿、また相談させてもらうかもしれませんがその時はよろしくお願いいたします」

「はい。いつでもどうぞ」


 カウリング卿は人混みに紛れていった。


「場所を変えよう」


 そういうとレオンは行き先も言わず歩き出した。楓もその後に続く。廊下に出たところで他に人がいないことを確認し、レオンは再び口を開いた。


「計画は滞りなく終了した」

「では2人は?」

「王によって取り急ぎ刑が決められた。キャンベル卿は爵位の剥奪と勾留、シャルロット嬢には勾留と君への2メートル以内の接近禁止が言い渡され、今は牢屋の中だ。これから取り調べの結果を受けて刑罰が決まることになった。余罪についても調べることになる」


 今までは訴えるまでにいたっていなかったようなことも、シャルロットが捕まったと知ればどんどん集まってくるだろう。父親の方も、余罪が出てくるかもしれない。


「あの、シャルロット嬢と話すことは出来ますか?」


 楓にはなぜ自分がターゲットになり、ここまでされるに至ったのか、それが分からなかった。正直に話してくれるかは分からないが、楓に確かめないという選択肢はなかった。


「もちろん」


 楓が連れてこられたのは、城の裏手。使用人もあまり来ないような場所だった。渡り廊下を渡り立ち止まったそこは城に設置された牢屋。ここにシャルロット嬢は捕らえられている。

 重い扉を開くと地下につがなる階段があり、レオンと楓はその階段を降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る