第39話 交流会 2
「シャルロット嬢には、他人のグラスに不審な粉を入れた容疑がかかっています」
「なに!?シャルロットが??・・・な、何かの間違いだろう!」
突然娘の容疑を知らされ、驚愕すると同時に冤罪を着せられそうになっているのだという勘違いから怒りがこみ上げてくる。
「間違いではありません。私の目の前で、シャルロット嬢は薬包紙のような紙に入っていた粉をグラスに入れていました」
ケネスが見たままの状況を伝えると、キャンベル卿はなにも言葉が出て来なくなってしまう。
「でもそれは・・・。あ、あのグラスは私の使っていたグラスだったのです!最近夜に決まって飲んでいる薬を自分のグラスに入れただけですわ!」
「なるほど。酒に薬をか?」
「え、ええ!私の飲んでいるものは酒と一緒に飲んでも問題のないものですから!」
「そうか」
レオンの追及に応えた苦し紛れの言い訳が後に自分の罪を暴くものだとも知らず、これで追及を逃れられるといつもの調子を取り戻しかけたその時、扉が開く音と共に会場に戻ったはずのケネスが入ってきた。彼の手には一本のグラスが握られている。
「酒と一緒に飲んでも問題ないというのなら、このグラスの中身を飲んでもらおうか」
「!」
「さあ、どうぞ。必要な薬なんでしょう?」
まさか会場にあったグラスを持ってくるなんて思ってもみなかった。自分のグラスと言ってしまった手前、飲みかけだったらなんて言い分は通用しない。その上、やむなく飲んだとしたら、たちまち薬の効果で自分が倒れてしまうことになる。もうシャルロットに言い訳できる余地は残っていなかった。
「わたくしのそのグラスに入れた粉は麻痺薬です。そのグラスも自分のものではありません。申し訳ありませんでした・・・」
この数分で何年も経ったかのようにやつれてしまったシャルロットは、膝をつき懺悔した。
「シャルロット、なぜこんなことを!誰に薬を盛ろうとしていたのだ!」
娘が罪を認めてしまったことで焦った父親に詰問され、自分の計画を
驚愕の計画に話を聞いたキャンベル卿はどうしたら自分が咎められないか、そればかりを考えていた。娘の不始末を自分に負わされないようにするにはどうしたらいいのか。それで頭が一杯で、レオンが新たに資料を用意し始めていることにはまるで気づいていなかった。
「シャルロット、何ということをしたのだ」
「お父様・・・」
「もうお前はキャンベル家の者ではない。即刻家を出て行きなさい」
「そ、そんな!どうか、どうかそれだけは・・・!」
娘を絶縁することで自分に累が及ぶことを防ごうとするキャンベル卿に、その場にいる誰もが呆れかえっていた。そこにレオンが間に入る。
「まあ、その件は後で話し合ってください。それよりも見て頂きたい資料があるんですよ、キャンベル卿」
キャンベル卿の目の前に、用意していた資料を突き出す。
「な、なんだ。これは」
今はこんなもの関係ないだろう、と続けようとして出来なかった。見せられた資料に見覚えがあったからだった。そう、公金の横領に関する手紙や裏帳簿のコピーがそこにはあった。
「な、なぜこれが!」
「なぜこれがあるのか、ですか?」
余計なことを口走ったと言い淀んだキャンベル卿の言葉をレオンが拾い続けると、キャンベル卿の額から滝のような汗が流れ落ちてきた。
「わ、私は知らない。こんなもの知らん!」
そう言っている最中も額がキャンベル卿の服にポタリポタリと落ちる。その汗を拭う余裕もないほど焦っていた。回らない頭をなんとか動かし、逃げ道を探ろうと模索して目がキョロキョロと動く。
その様子を見て、取り調べをするもの達はこるは落ちると確信した。
「こちらの手紙にはキャンベル卿の署名が入っています。この手紙の中で触れられているのはあなたと防災業者インジュリーの社長の公金横領についての指示が書かれています。それでもまだ言い逃れしますか」
「くっ・・・!私を陥れるために誰かが私を語ったんだ!そうに決まっている!」
両方の腕を広げ、必死に訴えるキャンベル卿だったが、この場にいる誰一人として信用するものはいなかった。それでも、キャンベル卿は止めなかった。
「そもそも、君たちに一体何の権限があるというんだ!」
「確かに、我々にはあなたを裁く権限はありません」
レオンたちが出来ることは調査における権限であって、捕まえることは出来ない。それは、諜報活動を行う部署の暴走を防ぐためだった。それを聞いて、キャンベル卿はすっかり余裕を取り戻し、口元には笑みが浮かんでいた。
「ならば、こんな場所に用はない。失礼する」
出口へ向かうキャンベル卿の前にレオンが立ち塞がる。
「この部屋を退室することは出来ません」
「ふん、邪魔だ!」
レオンを押し退け部屋を出ようとするキャンベル卿だったが、彼がノブを掴む前に外から扉が開かれた。
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