第11話 図書館の人と言えば・・・
休館期間最終日、なんとか蔵書目録が出来上がった。これで長期休館にしないと出来ない作業はひとまず終わった。
「ふいー。終わったー!」
万年筆を置いて掌を組むとそのまま掌を上に向け、ぐーっと伸びをした。
明日以降は本に分類をつけながら目録カードと貸出カードを作っていく作業へ移る。楓のいた世界でのパソコンが導入される前の図書館は、本のタイトルや本の分類などの情報が書かれた目録カードが検索端末の役割をしていた。
ここは一般の人は利用しないけれど、職員が業務の資料を探すためよく利用する。今までは文書管理担当がいる2時間の間に来て、本のタイトルを伝えて探してもらっていたらしい。これからは配置のルールさえ分かっていていれば、楓に声をかけなくても自分で本を探すことができるようになり、時間に縛られずに図書館を利用することができるのだ。
そのために、まずは目録カードと貸出カードの台紙と、それから本に貸し出しカードをしまうためのポケットを作る。それから1冊づつ目録カードと貸出カードを記入し、本にポケットを付けて貸出カードをしまい、目録カードはカウンター横に置かれた沢山引き出しのある棚に順番にしまうという作業を所蔵冊数分行っていくことになる。
昼過ぎからこの作業を一日中ひたすら繰り返すうち、気がつけば窓から夕日がさしてくるほど時間が経っていた。この一日では終わらなかったが、丁度手が止まったのが棚のキリのいいところだった。
「区切りがいいからもう今日は帰りますか」
時刻は勤務時間を少し過ぎたところだったので、仕事を切り上げて帰り支度を始めた。図書館の施錠をすると、門番に挨拶して城を出る。この2ヶ月毎日夜遅くに帰る楓に心配していたようで、区切りがついたと話すとよかったなと肩を叩かれた。明日はアーキュエイトの出勤日。久しぶりにちゃんとご飯を食べて、ゆっくり過ごして眠りについた。
⌘⌘⌘⌘⌘⌘
明くる朝、アーキュエイトに出勤するとロゼッタさんがもう仕事をしていた。
「おはようございます」
「おはよう、今日は早いじゃない」
ここ最近は睡眠時間が短かったので出勤が時間ギリギリになってしまっていた。今日はゆっくり眠れたおかげで、早めに出勤できたのだ。
「最近ずっとギリギリだったので流石にいけないなと思って」
毎日図書館で仕事していたことはロゼッタには言っていない。誤魔化すようにへへっと笑うとロゼッタは楓の目をジッと見て、ふっと笑った。
「そう。別にちゃんと仕事してくれればあのくらいの時間でもいいんだからね」
「そうなんですか?明日からはまた5分前に出勤しようかな〜。なんて」
「いいわよ〜?」
「もう、冗談です。今日はやることがあって早めに来たんですから」
「はいはい、わかったよ」
デスクにかけるとお互い作業を始める。予算編成時期なのはアーキュエイトも同じだ。店長として様々な書類を作成し、従業員の管理をしながらデザインも産み出し続けているロゼッタは今週はじめから残業が増えてきている。来週中には予算を作り上げないといけないので、自由にさせてもらっている分今度はこっちの仕事を頑張らないと。
「カエデ〜!ちょっときて頂戴〜!」
午後の業務が始まって少しして作業室から呼ぶロゼッタの声が。作業室に行くとロゼッタが手招きしている。
「ちょっとこれを見てごらん」
「これって・・・」
作業台の上にはエプロンが2着があった。それも料理で使うようなものではなく、厚手で簡単にはくたくたにならない素材で作られている。ロゼッタが広げて見せてくれたのをよく見てみると、左胸にはペンを刺せるようなポケットがあってエプロンの下部にも左右に大きなポケットが付けられていた。
「あんたが前に話してた図書館で着てたっていうエプロン、作ってみたんだよ。埃がすごくて服が汚れるって言っていただろう?」
図書館で働いていると意外と埃などの汚れがつく。本の修理をしていればなおのことだった。この2ヶ月図書館で働いていて服が汚れるたび困っていたが、忙しさのあまり落ち着いたら用意しようと後回しにしていた。このエプロンは図書館で作業する時にピッタリだ。
「2着とも私に?」
「もちろん。洗うのにもう一枚ないといけないじゃない。あとこれもカエデシリーズとして販売しようかと思ってるよ。作業で汚れるような職人にも売れるはずさ」
ロゼッタは広げたエプロンを軽く畳むと楓に渡す。受け取った楓は、嬉しさのあまり破顔していた。
「ありがとうございます。きっと職人によって必要なポケットが違うから、基本パターンを作ってあとはポケットを好きに配置できるといろんな人に受けそうですね」
「それいいじゃないか。それで売り出すとしよう。さあ、着てごらん」
商品の方向性が決まったところで、エプロンをきてみるとサイズがちょうどいいし着心地もいい。これで図書館の作業が捗りそうだ。
「大切に使わせていただきますね!ありがとうございます」
「クタクタになるまで使っておくれ」
「はい」
翌日はそのエプロンをつけて仕事をしたが、動きやすく機能的で、早速このエプロンは楓のお気に入りになった。
ちなみに職人用エプロンとして売り出したこのエプロンは鉄を扱う職人や製本業の職人に大層受けたそうで、しばらくはその注文が立て込むことになる。その忙しさを見た楓は仕事を増やしてしまったと後悔したが、当のロゼッタは儲かったことに大喜びしていた。
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