第353話

「水着を忘れちゃって……」

「いいのよ。Pくんにとってはお風呂の時間だもの……ね?」

 しかし菜々留はさして驚かず、パジャマを脱ぎ始める。

 豊満な身体つきとともに、S女子水泳部のスクール水着が露になった。

「今夜はナナルがたぁ~っぷり、プロデューサーくんにサービスして、あ・げ・る」

「……菜々留ちゃん?」

 隙だらけの恰好に思わず『僕』は目を見張る。

「いつまでもそうしてたら、風邪ひいちゃうわよ。早くぅ」

「う、うん。じゃあ……一緒に」

 息をするだけで鼓動が跳ねあがった。学校のプールに独特のにおいが、背徳感とともに興奮を煽り、正常な判断は追いつかなくなる。

 同じシャワーの下に入り、菜々留が『僕』の身体越しにレバーを捻った。冷水で始まったシャワーはみるみる温かくなり、白い湯気を充満させる。

「サービスって……菜々留ちゃん、どんなふうにしてくれるの?」

「うふふ、ナナルに任せて。こうやってぇ……」

 股間を隠すポーズで微動だにできない『僕』に代わり、彼女は次にボディーシャンプーを手に取った。それをスクール水着の生地へ垂らし、入念に泡立てる。

「ま、まさか――」

「じっとしてるのよ? Pくん……ンあっ」

 そして可愛い呻きとともに『僕』の背中にしがみつく。

 菜々留が拙いなりに身体を波打たせるたび、スクール水着がぬるりと擦れた。紺色の薄生地が濃厚なソープを絡めつつ、『僕』の背中をくすぐりまわす。

「そっそ、そんなすごいことされたら、ぼ、僕……!」

 心ならずも『僕』は喜びに震えてしまった。

 いくらプロデューサーに恩があるとはいえ、アイドルのサービスにしては明らかに度を越えている。『僕』自身、プロデュースにこのような見返りは求めていない。

 しかしそんな理性の訴えも、心地よさの波に飲まれてしまった。

 さらに菜々留は『僕』の身体に腕をまわし、スクール水着越しの抱擁を深めてくる。

「こんなふうにぎゅってするの……ナナル、好きかも……」

 ふくよかな巨乳が『僕』のうなじにフィットした。

 お腹の生地も器用に擦りつけ、『僕』を泡まみれに仕上げていく。

(も、もうだめ~っ!)

 心の中で悲鳴をあげながら、『僕』は柔らかさに翻弄された。

 感覚を断ち切ろうにも、菜々留のアプローチはすべてが不意打ちも同然。

「はぁ、はあ……も、もういいから……!」

 小刻みに震えては、声を上擦らせて、敏感なのを白状してしまう。おかげでスクール水着の女の子にリードされっ放しだった。

「まだまだこれからよ? Pくん。もっと、もぉっとサービスしちゃうんだから」

 右腕をくぐり抜け、『僕』の正面へまわり込もうとする。

 そのついでにスクール水着のデルタを脇腹に当て、ごしごしと。

「――ッ!」

 衝動に駆られるように『僕』は菜々留を抱き寄せた。

「きゃっ! ぴ……Pくん?」

 さしもの菜々留も突然の抱擁に驚き、可愛い顔を赤らめる。

「ご、ごめん。嫌ならほんと、止めるから……ぎゅ、ぎゅってするだけ……」

 それでも彼女はにっこりと微笑むと、『僕』に体重を預けてきた。『僕』の胸元をよじ登るように密着を深め、吐息を色めかせる。

「んはあ……いつもはナナルが抱っこしてるのに、Pくんに抱っこされちゃうなんてぇ……でもナナル、とても気持ちいいの。これ、好き……」

 そして『僕』の腕の中で腰をくねらせ、ソーププレイの自主規制――。


 その夜は後悔と自責の念に圧し潰されそうになる。

(僕ってやつはぁ~っ!)

 里緒奈のみならず、とうとう菜々留まで。

 さすがに最後の一線は超えなかったとはいえ、スクール水着を着せてのソーププレイはR15からも逸脱気味だった。

 せめて彼女が拒絶なりしてくれれば、よかったのだが。むしろ積極的にスクール水着越しに絡みついてきて、今夜のデートをエスカレートさせている。

 これが一対一の関係ならまだしも――。

(里緒奈ちゃんにバレたら……いや、菜々留ちゃんにバレても、殺されるぞ?)

 半ばカラダだけの二股交際に至り、『僕』は自己嫌悪に打ちひしがれた。

 おまけに里緒奈にせよ、菜々留にせよ、プロデューサーがアイドルを食い物にした形になる。出るところに出れば、『僕』の人生はゲームオーバーを迎えるだろう。

 もしかしたら、すでにマギシュヴェルトの刺客が情事を察し、『僕』をスナイパーライフルで狙っているかもしれない。

「アワワ……ど、どんどん取り返しのつかないことに……」

 それでも里緒奈や菜々留との濃厚なソーププレイを思い出すと、ムラムラと込みあげるものがあった。ぬいぐるみの姿で『僕』は悶々と夜を過ごす。

「あんなに気持ちいいなんて反則だよ……ん?」

 その布団の中で、はたと気付いた。

 確かベッドに置いていたはずの水泳パンツが、机に上に移動している。

「……あれ? こっちに置いたんだっけ?」

 首を傾げつつ、『僕』は水泳パンツを異次元ボックスへ隠した。

 水泳パンツは『僕』の正体が人間の男子であることに繋がる。里緒奈には説明がつくにしても、恋姫に見つかってはまずい。

 夏の旅行についても、とことん頭が痛かった。

「はあ……どうしよう?」

 里緒奈も、菜々留も、ほかのメンバーには内緒で人間の『僕』と遊びたがっている。よほど上手く対応しないと、簡単にボロが出て二股も発覚――は間違いなかった。

 ぬいぐるみの『僕』は頭を逆さまにして、真剣に考え込む。

「うぅーむ……」

 SHINYのライブコンサートも近い。

 まだまだピンチは続きそうだった。

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