第337話
外は晴れているものの、やけに雲が多かった。撮影に支障をきたしかねないので、魔法で一時的に晴れ間を作る。これくらいなら天候を変えることにはならない。
「なんでもできるんスねー、シャイPのおまじないは。そのおまじないでイイコトもしてるんじゃないっスか?」
「やだなあ~。みんなの役に立つことにしか、使えないってば」
それもこれもSHINYのアイドル活動のため。
大勢のファンを元気にする――という大義名分があるからこそ、『僕』の魔法は使用を許可されていた。
青空を維持できるうちに、体操着の撮影を始める。
装いを新たに菜々留が呟いた。
「Pくん、大変だったんでしょう? この企画のために学校と話をつけたり……」
『僕』はぬいぐるみの姿で胸(お腹)を張る。
「これくらいどうってことないよ。菜々留ちゃんたちSHINYの魅力を、世間に伝えるお仕事だからね」
その横から不意に里緒奈が口を挟んだ。
「――それで、わざわざブルマのある学校を選んだわけなの?」
「うん。ブルマは女子校を中心にまた増えてきてるし、僕も貢献しようと……ハッ?」
そこまで口を滑らせて、『僕』はぎくりとする。
にもかかわらず、恋姫の鉄拳が降ってくることはなかった。
「まだいいんですよ? P君。怒りは溜めに溜めて、最後に爆発させたほうが、威力も増すと思いますから……」
体操着の次はスクール水着――どうやら彼女はそのことを言っている。
里緒奈や菜々留も体操着の裾を押さえ、紺色のブルマを隠したがった。その恥じらいの仕草をカメラで捉えつつ、『僕』は息を飲む。
(ここで挽回しないと、スクール水着の撮影になったら……こ、殺されるぞ?)
同時に生唾も飲み込んだ。
むっちりと食み出すフトモモ、お尻の食い込み――ブルマという未踏の秘境が今、目の前にあるのだから。
「いいよー、里緒奈ちゃん! すごくいい!」
「今度は後ろ向いて? 菜々留ちゃん……うんうん! もっとお尻を強調!」
「あ~最高! 恋姫ちゃん、今のストレッチもう一回!」
専属のカメラマンとして『僕』はテンションを上げ、アイドルたちを激写する。
「――ハッ?」
我に返った時には、もう遅かった。
とうとう恋姫は青筋を立て、こめかみをぴくぴくさせる。
「ほんっとーにファンのため、なんですか?」
菜々留と里緒奈も続いた。
「Pくんが一番、楽しんじゃってるものねぇ……」
「ボール遊びも撮影しない?」
ぬいぐるみの『僕』はひょいと持ちあげられる。
「い、一応聞くけど……ボールって?」
「わかってるくせに~」
投げられた。
しかし撮影のほうは百点満点の出来で、スタッフ一同が舌を巻く。
「シャイP、カメラもできるんスね! マジ尊敬っス!」
「すごい……もう全部載せたいくらいよ」
男性スタッフのみならず、女性スタッフも感心していた。
「なんてゆーか……SHINYへの愛が溢れてる感じ? やっぱりプロデューサーとなると、アイドルに注ぐ情熱も桁違いなのねぇー」
「俺じゃ撮れないよ、こんなの。世界制服、こりゃ本当に狙えるぞ?」
何しろ『世界制服』は読んで字のごとくイロモノ企画。マーベラスプロのスタッフたちも半信半疑の中、社長の采配によって決まったようなプロジェクトだった。
その不安を払拭することに成功したらしい。
スタッフ一同は『僕』のカメラを支持しつつ、いそいそと次の準備に取り掛かった。
こうなってはアイドルたちも抵抗できない。ひとり、ふたりと妥協して、意固地な恋姫もついには負けを認める。
「わ、わかりましたよ……着替えればいいんですね?」
「頼りにしてるよ、恋姫ちゃん」
十分後、メンバーはスクール水着の恰好でプールサイドに集まった。
アンチムラムラフィールドの影響下にあるため、男性スタッフの反応は薄い。しかし女性スタッフは誰もが目を見開き、SHINYのスタイルに惚れ惚れとする。
「高校生であのプロポーション……羨ましいわ」
「シャイP直伝のシェイプアップ法があるんだってね。教えろって話」
里緒奈はころっと機嫌をよくした。スクール水着越しに自慢のプロポーションを撫で、『僕』を挑発する。
「どーお? Pクン。ぬいぐるみのオスでもドキドキしちゃうでしょ?」
YESと答えればセクハラ、NOと答えても野暮だろう。
とはいえ『僕』は男性ではなくぬいぐるみ。正直な感想を打ち明けてやった。
「うん、可愛いよ。抱き枕にしたいくらいサ!」
「抱き枕はPクンじゃないの? エヘヘ」
背中にぴったりと恋姫を張りつけ、菜々留も出てくる。
「準備できたわよ、Pくん」
「レ、レンキも……」
里緒奈に負けず劣らずのスタイルが陽光で照り返った。健康的な柔肌とスクール水着とのコントラストが、眩しい場所でもボディラインを際立たせる。
S女の水泳部のものと違い、ローレグのスクール水着なのも新鮮だった。充分に面積のある生地が、お尻をすっぽりと包み込む。
一方で豊かな胸は包みきれず、肩紐がその重みに牽引されていた。
「いつまで隠れてんのぉ? 恋姫」
「ちょ、ちょっと? 心の準備がまだ……」
「時間がないのよ。ほぉら」
「きゃああっ!」
里緒奈と菜々留が一緒になって、恋姫を中央へ引っ張り出す。
SHINYの悩ましい水着姿を目の当たりにして、『僕』は無意識のうちに震えた。
(プロデューサー、頑張っててよかった……!)
所詮は『僕』とて一介の男子、女の子の水着が嬉しくないはずもない。
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