第237話

 そのはずが、どこかで食い違いがあったみたい。

 決戦の収録現場にて、NOAHとパティシェルはお互い唖然とした。

「……………」

 私たちは九櫛咲哉プロデュースのコーディネイトで現場入り。一方で――パティシェルのトリオは変身アニメみたいなコスプレ衣装だったの。

 輝喜ちゃんがどかんと吼える。

「ゲーム対決って言ったじゃんかぁ! なんで普段着で出てくるわけ?」

 私はあとずさりながら、もごもごと弁解した。

「ふ、普段着じゃないよ? これは今日のための一張羅で……」

「はあ? フツーのワンピでしょ、それ」

 輝喜ちゃんと同じコスプレ姿の那奈ちゃんが、のほほんとはにかむ。

「相互理解にはまだ遠いのかなあ……ナナにはすごい気合入ってるふうに見えるけど」

 小恋ちゃんは腕組みのポーズで不服そうに口を尖らせた。

「どーなってんだよ、マネージャー? NOAHも変身してくるって話だったろ」

「お、おかしいわね……確かにそっちの方向で段取りを組んだはずなのに」

 綾乃さんは困惑するばかり。

 そんな綾乃さんにあてつけるように、聡子さんが淡々と言ってのけた。

「ですから、そちらのご注文通り、NOAHのみなさんには『変身』してもらったんですよ。何かご不満でも?」

「さ……さては月島聡子っ! あんたってやつは!」

 綾乃さんがヒステリーを起こす。

 NOAHの私たちは顔を見合わせつつ、同じ色の溜息をついた。

「はあ~。聡子さんも大人気ないんだから」

「何が何でも綾乃さんの思惑通りには進めたくないワケね」

 咲哉ちゃんが後ろからくっついてきて、私の肩越しにパティシェルの面々を眺める。

「どのみち一週間で人数分のコスプレ衣装なんて、揃えられなかったと思うわ。わたしも専門外だし……でも、興味がなくもないのよ?」

「もう服のことはいいって。始めるぞー」

 とりあえずNOAHもパティシェルも全員が揃った。私の体調も今日は問題なしだよ。昨夜はぐっすり眠れたし、朝ご飯もしっかり食べたもん。

 聡子さんが仕切りなおす。

「えー、みなさんもご存知とは思いますが……本日のゲームで勝ったほうがエンタメランドの舞台に立つ、という話で正式にまとまりました」

 リカちゃんは不思議そうに肩を竦めた。

「そこそこ紛糾したんじゃないの?」

「多少は……まあご心配なく。最終的には満場一致しましたので」

 パティシェルのマネージャーとして、綾乃さんがざっくばらんに説明してくれる。

「そもそもエンタメランドの仕事はこっちのタレントが急にキャンセルして、パティシェルにお鉢がまわってきたのよ。急あつらえの企画でも、盛りあがれば及第点」

「結依さんたちは好きに楽しんじゃってください。それでオーケーです」

 聞いたところで、私の頭じゃ理解できそうになかった。気持ちを切り替え、パティシェルの輝喜ちゃんと相対する。

「逃げずに来たことは褒めてあげるわ。御前結依」

「私の名前、憶えてくれたんだね。春日部輝喜ちゃん」

「フン、とーぜんよ。NOAHはみんな、ちゃんと憶えたんだから」

 威張る輝喜ちゃんの傍らで、那奈ちゃんがあっさりと暴露した。

「ひとつひとつ漢字を調べて、頑張ったんだよー? 前の現国は41点だったのに」

「那奈ぁ? どっちの味方なのよ、もお!」

 警戒すべきは那奈ちゃんの気がするなあ……。

 杏さんは勝負にあまり乗り気じゃない面持ちだった。

「本当に勝ち負けで決めるなんて……企画とはいえ、釈然としないわ」

 そんな杏さんを奏ちゃんが叱咤する(遊園地のために)。

「エンタメランドの大舞台が懸かってんのよ? 全員、勝つ気でやりなさいっ」

 ここで小恋ちゃんが危なっかしいことを言い始めた。

「張りあいがないってんなら、どーだ? 優勝したやつには、ほかの全員に何でも命令できる権利を進呈~! とか」

 怖いもの知らずのリカちゃんも乗っかる。

「賛成っ! そっちのが面白くなりそうじゃない」

「ま、待ちなさいったら……変な命令されたりするんでしょう?」

「お茶の間に流せる程度のものだってば」

 杏さんはひとり困惑するも、賛成は圧倒的多数みたいだね。

 正直者の輝喜ちゃんは悪い笑みを浮かべた。

「ひっひっひ……キキが勝ったら、NOAHの連中にはドジョウの全身タイツで踊らせてや~ろおっと」

「声に出てるよぉ? 輝喜ちゃん」

 ドジョウ……コスプレイヤーって色んな衣装を持ってるんだなあ。

 さらに小恋ちゃんが爆弾を投下する。

「もちろん最下位は罰ゲームだぞ。納豆ラーメンを完食だ」

「ええっ?」

 そのフレーズに私たちは一斉にぎょっとした。リカちゃんさえ弱腰でたじろぐ。

「そ、それは過酷すぎない? 納豆って……」

 にもかかわらず、納豆の肯定派がひとりだけいたの。

「え? 美味しいじゃないですか、納豆」

 真顔で断言したのは聡子さん。

 私は呆気に取られ、本音が口をついて出る。

「あのぉ……霧崎タクトの恋人が納豆とか、ありえないと思うんですけど」

「なっ? 見た目が悪いだけで、栄養は抜群なんですよ?」

「わたしはにおいが無理なのよ、あれ」

 咲哉ちゃんも否定派につき、NOAHのマネージャーは孤立してしまった。

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