第215話
ミュージックプラネットの本番に向けて、放課後はレッスンへ直行!
アタシは結依と一緒に自転車で寮へ戻り、聡子さんの車で練習場へ繰り出す。途中でL女に寄って、杏や奏も拾ってね。
ひとりだけ方向の違う咲哉は、矢内さんに送り迎えしてもらってる。
「ありがとうございます、矢内さん。わたしひとりのために」
「気にすることないよ。僕もNOAHのお手伝いができて、嬉しいんだ」
フルメンバーになったことで、聡子さんの負担が増えつつあるのよねー。寮の炊事洗濯も今後はプロを雇おうかって話が出てるくらい。
もちろん食事当番は今まで通りよ? 面倒だけど、結依とペアん時は嬉しいもん。
練習場に着いたら、全員でジャージに着替える。咲哉も一緒に。背中の傷の件で、いつまでも遠慮してらんないでしょ。
ジャージは以前スポーツメーカーにもらったやつ。
結依はピンク、杏は青、アタシはオレンジ、奏は紫で……余ってたのは赤と緑。緑は聡子さんが使ってるから、咲哉は赤となった。
「みんな、靴はなるべく汚さないように気をつけてね」
本番が近いってことで、靴はステージ衣装のものを履くことに。慣らしておかないと、いきなり新しい靴じゃ踊れないでしょ。
「この靴も咲哉ちゃんがデザインしたの?」
「ううん。さすがに靴は時間が掛かるから、合うのを探したのよ」
「……お高いんでしょう? これも」
着替えが済んだら、練習用のホールへ。
コーチはマーベラスプロでも教えてるベテランよ。スパルタ気味だけど、杏みたいに冗談が通じないってほどじゃないわ。
「しっかりウォームアップするのよー! 怪我だけは絶対、しないように」
「はいっ!」
そして、これより二時間――杏との最下位争いが始まる。
「ぜえっ、ぜえ……も、もう無理……」
アタシと杏は体力が持たなくって。練習が終わる頃にはヘバるのが恒例だった。
「もっと体力を、はあ、つけなくっちゃいけないわね」
「それ、ずっと言ってない?」
杏との仲間意識だけは強化されてくわ、ほんと。
その一方で、奏は割と平然としてるのが、ちょっと腹立つ。
「あんたたちの元気がなくなってくの見てたら、時計はいらないわね」
「く……」
奏って、去年はバレエ教室に通ってたのよ? バレエ。それだけに、アタシたちより体力はあるし、身体もそこそこ柔らかいの。
もちろん結依は二時間ぶっ続けで練習しても、ぴんぴんしてる。
「咲哉ちゃん、最後にもう一回、合わせとこっ」
「いいわよ」
そして意外なことに、咲哉も見た目に寄らずタフだった。
ファッションモデルって体型や姿勢の維持のために、スポーツジムで鍛えたりするんだって。咲哉の場合は活動を休止してた間、自棄になって鍛錬に打ち込んじゃったとか。
結依と咲哉だけでダンスの練習が続く。
ぽつりと杏が呟いた。
「楽しそうね、結依。やっと自分についてこられる仲間ができたんだもの」
「うん……。今の結依って、力を出し切ってる感じしてるわ」
結依と一緒に踊っていられる咲哉のことが、羨ましい。
休憩がてら、奏もふたりの練習を見守ってる。
「パートナーがいないと、合わせ練習にならないものね。結依がもっと伸びるためにも、咲哉の存在はどんどん大きくなると思うわ」
羨ましい分、悔しくもなった。
今まではアタシがカメラの指導を受け持ってたけど、モデルの咲哉には及ばないところがある。演技以外で結依に教えられることなんて、もうないかもしれないの。
「……マジで体力、つけなくっちゃ」
「じゃあ、あんたも咲哉の早朝トレーニングに参加したら?」
奏の投げやりな提案に、杏は早くも降参する。
「あれは無理よ……」
「ガチだもんね」
水の入ったペットボトル、猫除けかと思ってたのに……あれを重しにして鍛えるなんてね。結依や聡子さんも真似し始めて、はこぶね荘には筋トレのブームが来てる。
コーチがぱんぱんと手を叩いた。
「あなたたちはしっかりクールダウンしなさいね」
「はぁーい」
まっ、この調子ならミュージックプラネットも大丈夫でしょ。
☆
とうとうミュージックプラネットの当日がやってきた。
生放送だから失敗は許されない。早めにスタジオ入りして、段取りを確かめておく。
「……はぁ」
そのつもりが、妙に身体が重かった。
朝起きた時は何ともなかったのに……頭痛も酷くって、息が乱れるの。
でも今日は咲哉ちゃんの復帰を発表する、大事な大一番。今になって『体調が悪い』なんて言い出せるはずもなかった。
幸い杏さんやリカちゃんは台本に集中してる。
「後半はパティシェルなのね。挨拶に行っといたほうがいいんじゃないかしら」
「さっき来たとこだってー。こっちが出張ってる間に準備するんでしょ」
ミュージックプラネットは一時間の生放送で、NOAHは前の三十分……それさえ凌げば、切り抜けられる。
そのためにも、少しでも体力を温存しとかないと。
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