チャプター7 下界への旅立ち

「石頭さん、ここが下界ですよ」


 ミカエルの脇にしっかりと抱えられ、降ろされたその場所は荒れ果てた大地じゃった。

 ゴツゴツとした岩肌には見た事もないような紫色のコケのようなものが生えておったし、野菜を植えて育てる事が困難そうな硬い土には棘がビッシリと生えた草が生い茂っておった。

 ワシはフルフルと震えながら杖をつき周囲を散策し、見た事がない周囲の様子に黙り込んでしもうたのじゃ。


「……」


――ここは一体……。


「石頭さん、そんな険しい顔しないで下さいね。異世界ですからちょっとファンタジックでビックリしちゃうような植物や、人間に立ち入られたくない感をバンバン出している地形等も存在しますが、それら全てをひっくるめて大冒険ですから」


 ミカエルがワシの沈黙とは見当違いな事を抜かしおった。

 ワシが沈黙した理由はそんな安直な理由ではないのじゃ。

 ワシは……。


「ワシは感動しておるんじゃ。インディアンジョーンズみたいで素敵なんじゃよー!!」


 まだ、今よりちと若い頃に見た考古学者が遺跡を巡る洋画、ワシはまさに今考古学者爺さんになった気分で感動してしまっていたのじゃった。


「あはははっ、さすが石頭さん笑えますね。我々の想像を斜め上に行かれるその姿勢素晴らしいです、ねェサルエル」


 腹を抱え爆笑するミカエルにサルエルが布のようなものを渡す。


「斬新な発想ではありますけど、爆笑し過ぎですミカエル様。正体がバレないようにローブを身にまとって下さい。我々が天界の者だという事がバレると色々厄介です」


「まぁまぁ、サルエル。天界ショップでしっかり購入しておいたんですね。そういう律儀な所素敵ですよ」


「なっ……」


 サルエルが顔を赤らめ恥ずかしそうにソッポを向く。

 無口じゃが可愛い所もあるんじゃなぁーと二人の様子を見守る爺さん。


「爺さん、ククルだよ。あのね僕質問があるんだけど爺さんはもう年金もらえているのかイ?」


 ローブをいそいそと被るサルエルとミカエルを微笑ましい気持ちで見守っておると、ポケットの中に隠れておったククルが這い出てきてワシの肩の上で呟きおった。


「ほぅ、ククルよく年金なんて言葉を知っておるのぅ」


 ククルが短い手足で胸をポンっと叩き


「だってボク、金大好きだから金に纏わる事は何でも勉強してるんだヨ。異世界の書物が集まる、異世界図書館っていう所があって、そこにはどんな異世界の書物だって保管されてるんだヨ」


 ほぉーっと感嘆の声を上げ、髭をさすりながらククルの頭を撫でる。


「凄い勉強熱心じゃのぉククルは。爺さんはもう年金をもらっておるぞ」


「そうなんだね! すっごくいい情報ゲットしちゃったよボク。爺さんは基礎年金だけだったの、それとも厚生年金にも加入してたのかイ?」


「ククルは年金の事に本当に詳しいんじゃのう。関心、関心じゃて。爺さんは餅屋で自営業じゃったから基礎年金だけじゃてのぅ」


「そうなのぉー厚生年金じゃないと額が少なくなるネ。ククルがっくり。一杯一杯金が爺さんに入ってくればククルもおこぼれ、たぁーくさんもらえると思ったんだよ。しけた額じゃ僕は満足できないんだもんネ」


「すまんのぅククル」


 ワシはがっくりと肩を落とす。


 フワフワの被毛をまとったククルの短い手がワシの肩をツンツンする感覚でワシは我に返る。

 ククルを見やると、ククルがくいっと腹を突き出し見せてきおった。腹には小さな白いポケットが付いておった。ククルはそれを掴み一生懸命広げる。

 するとゴムのように伸びて、ククルを飲み込んでしまうぐらいの大きさになる。

 ククルが手を放すとパンっという音と共に収縮する。


「これがオイラの秘密のマネーポケット。沢山のお金が入るんダ」


「ククル、お主ポケットが付いておるんじゃな。」


 ワシは驚き目を丸くする。


「そうだよ、爺さん一杯お金を入れておくれヨ」


「すまんのぅ、ククル爺さん今は一文無しなんじゃ」


 チッという舌打ち、がしたような気がするが気のせいかもしれん。

 ククルはクルクルっと尻尾を丸め逃げるようにワシのポケットの中に隠れてしまった。


「どうされましたか、石頭さん」


 ローブを身にまとったミカエルが好奇心を顔に張り付かせ聞いてきおった。


「ククルと話しておったんじゃ年金についてのぅ」


「年金ですか。年金とは何ですか?」


 ミカエルが不思議そうな顔で聞き返してくる。


「爺さんになったらもらえるお金の事じゃよ」


「へぇー」


 興味があるような、ないような不思議な返答をする。

 

「お待たせしてすみません石頭さん、それでは出発しましょうか」


 ローブを身にまとったミカエルとサルエルは羽が隠れた影響か天使とは解らない風貌に変わっておった。


「まるで修道士のようじゃよ」


 と言うと


「そうですか」


 とミカエルがハニカむような笑みを浮かべる。


「とりあえず、近くの村を探しましょう」


 ローブ姿のサルエルが地図を片手に提案する。


「サルエル地図まで買ったんですね。豆ですねー」


 とミカエルに茶化される、今度は顔色を変えずに


「旅の鉄則です」


 と言い切ったのじゃった。

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